ようこそ桜火学園。
「そうですか。無事慧護君を此所に連れてこられましたか。」
ある一室で口元に手を当て喋っている老人がいた。
「……いきなりだったのでもっとごねると思ったのですが。……いえいえ、こちらの話です。分かりました。では、貴女も戻って来てください。……は?ショッピング?いや、確かに終わりましたが、……ハァ、分かりました。なるべく早く帰って来てくださいよ。……では。」
一頻り喋り終わった後、徐に手を口元から離す。
「まったく、日野さんも困ったものだ。さて、慧護君の事は誰に任せますか。……メグル君にお願いしましょう。」
そう言うとまた徐に手を口元に置いて何かを話始めた。
「……ここは?」
俺はさっきまで住宅街に知らない少女と一緒にいたはずなんだけど。
辺りを見渡すとその少女がいない上今までに来たこともない場所に一人立っていた。俺の後ろには高さ50メートルはあるだろう壁が左右に見渡せない程続いている。そして、目の前には広大な森林が広がっていた。
もう一度言おう。ここは何処だ?
……冷静になって現在の状況を確認しよう。まず、さっきまで一緒にいた少女(真っ黒女)は《魔力持ち》である事から。俺をここに連れてきたのが彼女の能力であることはまず間違いない。だが、何故こんな森の中なんだろう?どうせなら桜火学園に直接連れてってくれればよかったのに。
「……しょうがない。森の中に入ってみるか。」
ずっと此所にいてもしかたないしな。俺は一歩森の中に足を踏み入れようとした。
「止めておいた方がいいですよ?」
突如、後から声をかけられた。……後ろは確か壁のはず。
俺が振り向くとそこには俺と同い年くらいの少年が立っていた。
身長は俺と同じくらいか、髪を茶髪に染め、眼鏡をかけた少年は不良なのか真面目なのか微妙に判断しづらい、だが似合ってないわけじゃない。
「その森は園芸部が作った食肉植物の森だから下手に入ると一瞬にして食べられてしまいますよ。」
……色々ツッコミたい事があるが、
「あんた誰だよ?」
「僕はここの生徒で本田メグルといいます。貴方を桜火学園の案内を任されました。」
本田?てことはあのジジイの……。
「ここは何処なんだ?」
「……何も聞いてないんですか?ここは桜火学園の端にある森林です。まぁ、今はさっき言ったように食肉植物が生息するから帰らずの森って呼ばれているけど。」
「……いや、何それ。」
「ん~説明すると長いんですが、とりあえず案内しながら話しましょう。僕の後ろを付いてきて下さい。」
メグルは俺が入ろうとした場所から1メートル右に進んで森に入って行った。
「ここはある一定の道以外を進むと肉食植物に襲われてしまうんです。だから僕に離れず付いてきて下さいよ。」
森の中に入ると一瞬にして辺りが暗くなった。……ここには光が入らないのか。
「分かった。ところで色々聞きたいことがあるんだが。」
「なんですか?」
「まず、桜火学園について一通り知りたい。」
暗闇の中まったく、目印もないのに迷わず進むメグルの後を追いながら応える。
「またアバウトですね。」
「ここでの常識と命に関わる事を頼む。」
目先の疑問は後回しにしよう。とりあえずこれから起こるであろう事について気を付けよう。……踏み込んだら食われましたじゃ洒落にならん。
「ん~じゃあ簡単に説明しますね。ここ、桜火学園は海に浮かぶ巨大な学園島です。」
「島!?」
「はい。場所は不明ですが海に浮かんでいるのは確かです月に二回ここに船が着ますし、僕もそうやって来ましたから。」
……俺は有無を言わさず連れてこられたがな。違いはなんだ?
「ここの総人口、教師生徒合わせて約8000人そして、生徒の方はある一部を除いて全員がここで生活しています。ですがそれ程困る事はないですよ?日用品はここで全て揃いますし、あ、でも携帯やパソコン、テレビ等はないですよ。」
「それ死活問題だろ!」
「大丈夫ですよ。そういう情報は意外とはいってきますし、パソコン等の知識は授業で習います。」
いや、そういう問題じゃないだろう。
「娯楽は?」
「ないです。」
「買い食いやお酒は?」
「だからないです。」
「いったい何を楽しみに生きろと!?」
俺は地面に崩れ落ちる。 だが、メグルは笑いながら話す。
「そこだけは安心して下さい。……ここで暇になることはないですよ。話題に事欠かないですから。」
「……本当か?」
「すぐにわかりますよ。あ、話てればもう出口みたいですね。」
暗い森の奥から光が見え始めた。やっと出口かもう二度とここには足を踏み入れないことにしよう。
「そういえば慧護君はまだ誰にも言われてないみたいですから僕が言いましょう。」
メグルが出口に手を広げ笑う。
「ようこそ桜火学園へ。」