《500文字小説》記憶が呼び覚ますもの
掲載日:2011/04/18
朝、学校へ行こうと家を出た時、思いがけないものを見た。それは車にはねられた猫の姿。吐き気がする程怖いのに、僕は目を離せなかった。
「何を見ているんだ」
叱るような声に振り返ると、両親が薄気味悪そうに僕を見ていた。
僕がもっと小さかった頃、パパはいつも家にいた気がする。その朝、何故か思い出したのは、夏の夕暮れ、畳の上で大の字になっているパパの姿。でも、それ以降は忙しくなって、あまり家にいなくなった。けれど今のパパより、昔のほうが好きだった。
学校から帰ると、僕は隣町のお祖母ちゃんの家へ遊びに行った。ママが僕を変な目で見るのが、気に入らなかったから。
「お父さんそっくりになったね」
「皆は、ちっとも似てないっていうよ」
お祖母ちゃんは、ちらっと僕を見ると、ポツポツと話してくれた。僕のパパは亡くなったのだ、と。
「お前が三歳の夏にね。身体を壊していたんだけど、急に。それからお母さんは再婚したの。……もっとも前からの知り合いだったようだけど」
最後の一言を、お祖母ちゃんは吐き捨てるように言った。けれど、夏という言葉に、僕の手は震えた。今日、唐突に思い出した記憶。それが何を意味するのか、わかってしまったから。




