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エピローグ

 〈桜姫〉が帰還した。

 本物の〈桜姫〉———正直、実感は湧かない。以前の〈桜貴〉も、本物だと疑わなかったのだから。

 元より他者と距離を置く方だったし、ましてや『催眠』をかけてくる〈神器〉に誰が好んで近づこうとするだろうか。自分の意思に反したことをさせられる、その能力を皆が恐れていた。

 〈桜貴〉が滅多に人前に出ないことをいいことに、堕落した政治が行われていたのは事実だ。何も意見が通らない、進まない、同じことが繰り返される意味のない会議。助けを求める申し出に対して、何もできないことを悔やんだ。


 新たな〈桜姫〉は、全く違った。

 当初、幼さ故に舐められていたが、それもすぐに覆された。

 頭のキレる方だった。これまでの記録を総洗いして的確な人事整理を進めた。主張は説得力があり、反発に対して引かない強い芯があった。

 そのような強行策であるから、元々上の方の立場だった人間からの反発は今も強い。『父親殺し』と、彼女の悪評をばら撒く連中もいる。まだ自由に動けない部分もあるのだろう、全てがスムーズにはいかないが、彼女は有耶無耶に終わらせることはしなかった。

 新たに〈魔術師〉の活動に対する規制の見直しも議論されている。今まで「何もするな」と〈仇鬼〉に対して一切の言及を認めず、技術の進歩を遅らせていることは無意味だと。むしろそれらの技術は活用すべきだと、〈魔法〉技術の限界も踏まえて主張している。「何故そこまで詳しく知っているのだ」と、ある意味これまでの規律違反を疑い、咎める問いに対して、「知らないのなら何故、危険だと決めつけて禁じていたんだ。」と言われると、誰もそれ以上反論できなかった。


 犬屋敷(いぬやしき)刃透(はすき)は、新たな〈桜姫〉に対して複雑な思いを抱えながら走っていた。

「また外に出られていたのですか!?」

「うん。」

 歩きながらフードをとり、そのまま上着を脱ぎ棄てて、桃色の髪をかけ上げた〈桜姫〉その人は歩きながら犬屋敷に指示する。

「刃透。中央領の東にある大きな川のあたり、橋の整備を候補で挙げてくれ。あそこが狭いと東の州境から〈仇鬼〉が来た時に逃げ遅れる。」

 犬屋敷刃透は上着を拾いながらその後ろを追いかける。

 確かに、あそこのあたりの調査はまだ進んでいない。言われている場所のこともわかる。しかし———

「あなたが行かなくても、指示されれば私が向かいます。」

「直接見てわかることもある。」

 危ういと思った。前〈桜貴〉に不満を持っている者が、〈桜姫〉を襲わないとも限らない。自分の身の危険を顧みない人だ。

 最初は、彼女がどうなっても自分の知ったことではないと思っている節もあった。〈神器〉なのだからどうにかするろうと思っているし、たとえどこかに消えてしまっても、また次の代理が決まるだけなのでは?疲れていたのだ、〈桜貴〉の政治に。

 しかし、今はこの人でなければならないと思う。

 改めて、守らねばと思った。

 今の主人はこの方だから。

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