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第一王子ビクトルと、マーレイ子爵の令嬢、ロザンナの仲が噂されるようになるのに、そう時間はかからなかった。


はじめは、ロザンナがビクトルの取り巻きに加わっただけで、誰も違和感を持たなかった。ビクトルの周りは常に人で溢れていたから。

しかし、しばらく経つと、令嬢の集まりだけではなく、側近候補たちが周りに集っているときですら、ロザンナはビクトルの側に控えるようになった。

それまで、令嬢たちと側近候補たちは暗黙の了解で、王子に侍る時間を譲り合っていたのだ。

自分たちと話す時間になっても立ち去らないロザンナを側近候補たちは訝しんだ。しかし、ビクトルがとがめず、それどころか積極的に話を振るものだから、なにか考えがあるのだろうと黙認した。


次第に、ビクトルの隣にロザンナがいることが多くなっていった。

第三者がいる場面でも、ロザンナに何ら関係ない話をしているときでも、ロザンナは微笑んでビクトルの隣に佇んでいた。


ビクトルとロザンナが二人で歩いているところもよく見られるようになった。

ふたりきりで密会しているわけではない。ただ、ちょっとした移動中に見つめ合って笑い合っているだけだ。

しかし、今まで特定の人がそばに居続けることはなかったので、ロザンナはたいそう目立ち、注目を集めた。




「見て、第一王子殿下とロザンナさんよ」

「またお二人で歩いていらっしゃるのね」

「あちらに向かうということは、お二人で四阿でランチを召し上がるつもりかしら」


庭園に続く道を見渡しながら、窓から令嬢たちがヒソヒソと囁き合っていた。


「すっかり我々と政治談義をしながらのランチ会はなくなってしまったな」

「国政について熱い話をしているところに、ふわふわと砂糖菓子のように微笑んでいられてもこちらの気が散るだろう」

別の窓には苦く顔をしかめた有力貴族の令息たち。



アナスタシアを非難していた声たちはなりを潜め、あっという間に王子と子爵令嬢の話題でもちきりとなった。

それだけ、ビクトルが誰か一人を重用することは衝撃的だったのだ。

今まで、婚約者のアナスタシアですら、そばに置くことはなかったのだから。


ビクトルたちを非難する声が大きくなるにつれて、アナスタシアを憐れむ声も聞こえてくる。


「アナスタシア様はずっと想い人を眺めているだけで我慢していらっしゃるのに」

「ロザンナさんを側室にされるおつもりかしら」

「アナスタシア様は、結婚前から側室がいるビクトル様に嫁ぐということ?」

「王族に嫁ぐことがいくら名誉であっても、それはあんまりだわ…」


この国では、王族のみが側室を持つことを許されていた。王族以外の貴族にも妾や愛人を持つ者もいるが、それは表に出すことではなく、恥ずべきこととされていた。万が一跡継ぎが生まれず、やむなく別の女性が必要になる場合は、必ず妻とは離縁してから、と法律で定められている。

これは、無駄に庶子を増やしてお家騒動に発展しないようにという、国の思惑が絡む考え方でもあった。もっとも、子が産めなかった女からしたら、石女のレッテルを貼られて実家に返されるのだから、たまったものではないが。


ただ、王族が途絶えるわけにはいかず、王族のみ側室という制度が認められているのだった。

何事も、権力者は例外を作れるものだ。

しかし、ここ何代も王は側室を持っておらず、王みずから率先して一夫一妻制を広めようとしているところであった。



妾、愛人が許されないという考え方の貴族にとって、王であっても二人で男を共有するなど、考えるだけでもおぞましい話だ。

それゆえ、貴族女子の同情がアナスタシアに集まっていった。




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