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今回は短いです。
それから、アナスタシアとビクトルは節度ある交流を続けていた。
定期的に王宮で交流のためのお茶会を催し、時節の手紙と贈り物をやりとりし、二人揃って社交に出る。一見してごく普通の婚約者同士であった。
お茶会や社交の場では、ふたりとも穏やかな微笑みをたたえ、良好な関係を築いている様子がうかがえた。
アナスタシアから見て、ビクトルはとても自然体であった。
婚約解消を視野にいれているとはとても考えられない。そもそも、婚約解消に向けてなど動いていないようだった。
ビクトルと少なからず共にいる中で、アナスタシアは彼の考えを少しずつ理解していった。
彼はアナスタシア以外にも、多くの男女と交流を持った。それは自身の力になりそうな男性と、自身の心を動かすかもしれない女性とだ。
つまり、ビクトルはアナスタシアよりもっと心動かす、自分にとって良い人が現れた場合は婚約解消しようと考えているようだった。
それに気付いたとき、アナスタシアは自分の足元にぽっかり穴が空いたような気がした。
王子の行動は咎められるようなものではない。将来国を担うものとして、男女問わず多くの臣下と交流するのは良いことだ。女性との距離感も決して近くはなく、交流の場で会話をしたり、求められれば舞踏会でともに踊る程度。そんなのはどの貴族男性だってしていることだ。
アナスタシアを蔑ろにせず、丁寧に扱っているビクトルに、特に言えることはない。
両親もふたりの穏やかな関係に満足しているようだった。
アナスタシアとて、最初のあの会話がなければビクトルの行動を疑いなどしなかったはずだ。
ビクトルが自分とすぐに婚約解消しないのは、もし心動かすような人が現れない場合は私で手を打とうと考えているからだ。
そうすることが最善だと考えている。
そこにアナスタシアの幸せは考慮されていない。
当然、アナスタシアもそのほうがいいはずだと思い込んでいるから。
なんて傲慢なのだろうか。
他の人に心変わりしたからと捨てられるように婚約解消されるアナスタシアのその後を少しでも考えたことはないのだろうか。
そもそも、両家の益を考えた婚約がそんな理由で解消されるのだろうか。
…きっと、あの王子のことだから、それ以上のメリットを提示して周りを説得するのだろう。
ああ、足下の穴がどんどん大きくなり、アナスタシアは落ちていく。
先の見えない底なしの穴に、ずっと落ちていくしかなかった。