買い出し
今日は渋谷へ買い物に来ている。
というのもお店拡張のためである。
ハーピーを仕入れた事がオタク層の支持に繋がってさらに大繁盛しているのだ。
ホカク様々だな。
そうそう、カミラからゲーセンの中にバーを作ってみたらどうかと提案を受けたのだ。
そのため今日は小物を買い出しに来ている。
サキちゃんに店を任せたんだけど、大丈夫かな…
「てんちょ、これとかどうですか?」
「おおお、洒落てるじゃん!」
買おう! 今懐あったかいし!
それにしても店の外が騒がしい。
店内もザワザワしている。
「おい! デギマル来てるらしいぜ!」
「え?! ちょ、外出よ!!」
「カミラ、デギマルってなに?」
「デギマルは有名な冒険者ですよ、別名、獣神デギマル。魔物に変身するるしいデスっ」
「へー」
「冒険者になって最も成功した人の1人ですね」
俺には無縁の話だ。
強いのっていいな…
大猿とハーピーが入ったバッグを、購入した照明器具を入れるために整理しながら人だかりを眺める。
ハーピーと大猿は盗難防止のために外出時は俺が保管しているのだ。
外ではデギマルと呼ばれる男が若い子に取り囲まれ、写真を撮っている。
「けっ! 羨ましくなんかないね!」
「なに、悔しいんですか店長」
「俺もマホウさえ使えれば!」
「いや、店長もっとヤバいアプリ持ってるじゃない…」
違うんだ! 俺はマホウが使いたいんだ!
カミラちゃん、君は男のロマンを分かっちゃいないね!
♢
渋谷のとあるビル屋上にて
「宣戦布告です」
「今日、やるんですね」
「ええ、挨拶程度です」
♢
外を眺めている。
デギマルにできた人だかりは勢いを増している。
しかし、デギマルへの歓声が悲鳴に変わった。
「「「きゃぁぁぁぁあ!」」」
「カミラなんか外やばくね?」
「え? どれどれ?」
店内のガラスからは人が逃げ惑っているのが見える。
「え、ヤバいですよ店長! 外!! 魔物がいるって騒いでます!」
「えー? うそ? んな訳あるかい!」
—爆発音
外を見た。
人間っぽい影がビルの屋上から地上に向かって攻撃を始めている。
巻き込まれる人と逃げる人で外は大混乱だ。
「まじじゃん! いやでもデギマル強いんでしょ? 大丈夫だろ」
「いやいや! ダンジョンじゃないからマホウ使えませんって!!」
「あ、まじじゃん」
外の人だかりと店内にいた人は瞬く間に地下鉄へと消え去り、人っ子1人残っていない。
呑気に眺めていた俺らと外にいるデギマルだけ残っている。
「あいつ大丈夫なん?」
「店長! 人の心配してる場合ですか! 私たちも逃げますよ!!」
逃げるって言っても、今外出たら絶対見つかるじゃん!
中型の魔物が地上に降り立つのが見えた。
何か叫んでいる。
「おーい! 人間ども!! いつもの威勢はどうしたァ!! こっちだと弱腰かァ?!」
ツンツン頭の人間が外にいる。
「あれ味方じゃないの?」
「なんですかあれ! あんな人知らないですね」
ツンツン頭はニヤニヤしながら叫んでいる。
「おいおいおい、隠れても無意味だぞォ?! 探して殺すぞォ?!」
そういうとツンツン頭の前に魔法陣が現れた。
「出ろォ! スカルベンジャー!」
魔法陣の上に数体のガイコツが現れた!?
「探して殺せェ!! 人間を!!」
ガイコツは縦横無尽に飛び回り、ビルや地下鉄に向かって走り出している。
「カミラ、これ、まずいな」
外を見るとデギマルは腰を抜かして動けないようだ。
勿体無いけどあれ使うしかないか…
言うこと聞いてくれるかは賭けだけど…!
ソマホのビームが光る。
「グギャァァァア!!」
♢
俺様の名前はデギマル。
俺様は最初に挑戦したダンジョンで、この世に1匹しかいないと言われているスライムの特殊個体「ヘンシンスライム」を倒した。
それにより倒した魔物に変身ができるようになったのだ。
つまり冒険者として恵まれた者の内の1人だ。
運も実力のうち。
しかし、それはダンジョンでの話だ。
今、俺様は死を迎える。
日本国内に魔物が現れたのだ。
聞いたことがねぇ…
俺様は腰が抜けて動けない。
マホウはやはり反応しない。
魔物が俺様を見つけた。
剣を振り上げて走ってくる。
終わった。
ん?
終わっていない。
♢
街の外には大猿とハーピーが出現した!!
次々にスカルベンジャーを薙ぎ倒していく。
大猿は飛び跳ねて、地面と平行に棒をフル回転させた。
スカルベンジャーのドクロが吹っ飛ぶ。
ハーピーは空中からスカルベンジャーのドクロを掴み上げ、握りつぶす。
「オイオイオイ!! なんでハーピーとゴクーが邪魔してくんだァ?! てかなんで日本にいんだよォ! 話ちげぇじゃねぇかよォ!!」
ツンツンはそう叫ぶと光を放って姿を眩ました。
カミラはスカルベンジャーの亡骸にソマホを置いてアップデートしている。
俺は大猿とハーピーにビームを当ててフィギュアに戻す。
よかった、ゴブリンの時と同じで言うことを聞いてくれるようだ。
デギマルに声をかけにいく。
「大丈夫か! にいちゃん!」
「…」
デギマルは目が点だ。
「あ、あ…」
「ん?」
「あ…おっさんが助けてくれたのか?」
鼻息荒くして腰に手を当てる。
「フン! そうとも! 感謝しやがれ!」
「何者なんだ、おっさん…」
デギマルは倒れてしまった。
えええ、今倒れんなよ…
周りに人いないし…
遠くからヘリコプターとサイレンの音がする。
けどこのまま放置しておくわけにはいかないしな…
ゲーセンに連れて帰ることにした。