グールのおやぶんっ!
だいぶ歩いた。
密林の川を目印に歩いて来た。
この子達…厚底の靴履いているのにすげぇな…
俺ですら苦しいのに…
ぜぇぜぇ…
「カミラー! 店長ー! こっちきてー! 草に隠れた祠見つけたー!」
「え、ええ…」
カミラは明らかに嫌そうだ。
「お、俺はいけるぞ!」
「カミラくるー?!」
「じゃ、じゃあ私も行きます! おじさん抜きでお願いします!」
いや、おい!
てことで3人で祠の中に入った。
「店長、こう言うところに珍しい魔物とかいるんですよ」
「ほへー」
ダンジョン豆知識があっても、どうせ俺一人で来ないしなー。
—地響きがする。
「え、何この音」
「え、なにカミラ怖いの〜?」
意地悪そうな声でサキちゃんが煽る。
「こ、怖くありません!」
—地響きがする。
え、これ俺も怖いんだけど。
「大丈夫大丈夫! ここ初心者用のダンジョンだよ?」
「うー…」
俺は声も出ません。
小さなトンネルを通っていく。
その奥は大きな広間につながっていた。
「ついたー! けど何もないっぽいね」
「何もなかったならもう帰りましょ!」
だめだ! それはフラグになっちまう!!
—地響き
すると先ほどよりも大きな地響きが始まり、入って来た道が落盤で潰れてしまった。
「「きゃあああ!!!」」
「うわぁぁぁ!」
俺らの叫び声に呼応して上から何かが降ってきた。
—大きな着地音
「ぐぎゃぁぁぁぁあ!!!!」
赤ら顔のどでかい猿の魔物が降って来た!!
手には真っ赤な棒を握っている!
「カミラ!! サポートお願い!」
「は、はい!!」
俺は何もできずにボーっとするだけだ。
すげぇなこの2人。
めちゃくちゃ早いソマホ操作で魔法を繰り出すサキちゃん。
サキちゃんの黒々したえげつないマホウが魔物に当たる。
「めうめうリキッド!!」
「ぐぎゃああああ!」
効いているようだ。
俺が出る幕もないかな!
しかし、猿も負けずに応戦する。
手に握っている棒を振るう。
そして、いきなり加速して伸び出した!
如意棒?!
「サキさん! 危ない!! 水流操!」
カミラは咄嗟に水マホウを出してサキちゃんが横に吹き飛ばされる。
棒がサキちゃんの頬を掠める。
「ありがとうカミラ! まじ何この猿! 強すぎ!! おりゃ! すぱすぱカッター!!」
斬撃が飛び出し、猿に当たる。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁあ!!」
猿は大激怒した。
棒を振り回しながら近づいてくる。
—ブンブンブンブン!
猿の突進。
「かちかちシールドっ!」
サキちゃんは自分自身とカミラを守るため、2人と猿の間に大きな岩を出して防いだ。
猿の振り回す棒が当たるたびに岩にヒビが入っていく。
「え…岩でもヒビ入るの??」
どんどん削られていく。
「え、やだ!! 持たない!! やだ!! 死ぬ! やだ!!」
これマジでまずい状況?
初心者用で死ぬことほぼないんじゃないの?
サキちゃんなら勝てると思って楽観的に身構えていたのに。
俺は壁をつたって逃げていた。
「店長! 助けて! やだ!! まだ死にたくない!!」
防御している岩がガラガラと剥がれていく。
カミラは恐怖で呆然としている。
腰が抜けていて意識が薄そうだ。
「むり! 死んじゃう!! 死んじゃうよ!」
猿の棒がサキちゃんの岩にゴリゴリめり込んで行く。
そして
—岩が破壊される音
岩が崩れ、2人は猿と対面した。
「ぐぎゃぁぁぁぁあ!!!」
サキちゃんのソマホをいじる手が止まった。
ニタだと笑って大きく振りかぶる猿。
「よ…っと!!」
線と線が繋がる。
広間の地面を四角い線で囲み終わった。
「ぐぎゃっ?!」
—ゴトン
猿は音を立てて小さくなり、固まった。
「ふぅ」
「てんちょぉぉおお! ナイス!」
サキちゃんに抱きつかれそうになった。
瞬間、ダンジョンが消えた。
密林から一瞬でお寺の境内に戻る。
ダンジョンに参加したいた多くの冒険者が境内に集まり、ごった返している。
サキちゃんもカミラも俺も驚きだ。
「え、これボスだったのかな…」
初心者用ダンジョンでボスを倒すのは御法度である。
受付のお姉さんたちがすっ飛んで走ってきた。
「誰ですか! ボス倒したの!!」
誰も名乗らない。
というか皆困惑しているのだ。
それもそのはず、ボスを倒した例は世界でも2件しかない。
そのくらい難しいものらしいZE!
「誰ですか!! 素材回収、および質疑応答のため挙手を願います!」
「え、あー、オレかも!」
目立ちたがりそうな大学生っぽい兄ちゃんが手を上げた。
キオスクに連れ出される。
ラッキー♪
めんどくさいことになりそうなので俺たちはそそくさと帰ってきた。
ダンジョンが消滅することはめちゃくちゃ珍しい。
だからその後の対応がまだ決まっていないのだろう。
サキちゃんも回収した素材(グールの舌とでかい爪)を売却しないまま持って帰って来ていた。
「その爪、いつ手に入れたの?」
「マホウで削いだ。そしたら怒り出した」
ソマホに爪を当ててアップデートしながら答えてくれた。
あー、だからいきなり激怒したのか、あの猿。
てか、キレてたのってお前のせいじゃんかよ!!
おれも約20体のグールをゲーム機にぶち込んだ。
これは人気でるぞー! かわいいもん!
あと捕まえたこの大猿は箱に入れて目玉景品にしよーっと!
包装業者に専用の箱を発注した。