閑話2
さあ、乱獲するぞ。
といってももう持ってる魔物を取っても仕方がない。
ここにどんな魔物がいるか聞いてみようか。
「受付さーん、ここってどんな魔物がいるの? やっぱスライムとかゴブリンくらい??」
「基本はその2体が報告されています。しかし、鳥居を出て左に向かいますと時折ゴブリン集落の確認情報やハーピー、ニードルタートルなどの目撃情報も受けます。あ! でも戦闘はしたらダメです、すぐに逃げてください」
「ほー、プチドラゴンねぇ〜」
「あのー、話聞いてます? 逃げてくださいよ?」
適当に相槌を打って鳥居をくぐる。
ここら辺の野原にはスライム、右の森を抜けるとゴブリン、ハーピーにあったんだっけ。
ハーピーはもう何体か欲しいけど俺1人じゃ無理だ。
ニードルタートル、こいつは足遅そうだし行けそうかもな。
今日は鳥居を出て左に向かって歩く。
向かいから男女の集団が帰って来た。
「なんだよ、俺らで開拓しようと思ったのになー」
「向こう言っちゃダメなら先言ってよね」
「あ、おっさん。向こう側行っても無駄だぜ。強い魔物が出るからダメなんだと」
「情報ありがとう」
どういうことだ??
道なりに歩く。
冒険者の集団が森の入り口を塞いでいる。
「ダメダメ、ここから先はやばい魔物が見つかったから一般の冒険者は立ち入り禁止だよ」
「そうっすか」
なるほどねー。
去ったふりしてポッケに入れて持って来たゴブリン5体にビームを当てる。
そして復元する前に草むらに投げる!
「お、おい!! ゴブリンの群れだ!! 殲滅しろ!!」
ゴブリン達が囮になってもらってる間に森に駆け込む。
そこまで変わり映えのしない森だな。
そう思っていたがすぐに期待が外れる。
「あちら側のモノですね」
「ひゃっ?!」
いきなり木陰から話しかけられた。
誰?!
「こちらです」
「ん?! どこ?!」
「こちらです」
「だからどこ!!」
「こちらですって!! 早く向けよ!」
一際大きな樹木の方に目を向けると、樹木と一体化した人間? らしき形が浮かび上がった。
「うわぁ!!! 何お前!!」
「いきなり大声出さないでください! 危害は加えません!!」
「なになに!! 怖い怖い!!」
「ドライアドです!! 危害は加えませんって!」
樹木から二つの丸が隆起している。
女性のドライアドか?
「あなたはあちら側の人ですか?」
「え、あ、まぁ。向こうでゲーセンの店長をやってるモノです」
そんなことどうでも良かったらしい。
無視されて話を続けられる。
「私たちの集落はいま、スパークスネークの暴走で壊滅しかけています。お力を…どうかお力を!!」
「へぇ」
「へぇって…あなた、さっきゴブリンを森に向かって投げてましたよね」
「いや俺じゃないっすよそれ」
「ドライアドは樹木を通して全てを把握しています」
「はい、すみませんでしたそうです俺です」
「あなたの魔物を操る力、そのお力を貸していただきたいのです。スパークスネークの天敵、キノコワラシを従えて、追い返していただきたいのです」
「キノコワラシ? 知りませんねそんな魔物」
「大丈夫です、私が案内いたします故」
いやこっちが大丈夫じゃないんだが。
踵を返してドライアドに背を向けた。
ん? 足が動かない。
足元を見るといつのまにか足に草木が絡みついて動けない。
「おい、どういう了見だこれは!!」
「来ていただきます!」
ニコッじゃねぇよ!!
誘拐だ!!
ドライアドはなんと象の鼻ほどありそうな木の幹をノレンのようにくぐって木の中に入り込んだ。
彼女から生えた根に絡まった俺の足は引き摺られていく。
そして木の根から木の根へと森を移動する。
人間の俺が何故同じ動きができるのか分からないが、ドライアドに繋がっている間は木の根を伝って移動できているようだ。
それほど時間がかからずとある木の幹から俺とドライアドは排出された。
「着きました。ここにキノコワラシが出現します」
「え…ここどこっすか…」
昼間のはずなのに鬱蒼と茂った木々に覆われた暗がりに着いた。
ドライアドが手を叩くと、あたりに蛍光色の光が灯る。
「これは全て発光するキノコです。目標にお使いください」
とっても綺麗な空間だが、それよりも帰れるかどうかが心配で汗が止まらない。
「いました、あそこで動いているキノコがキノコワラシです。キノコに見えますがキノコではありません」
「え、は??なんすか?」
全然聞いてなかった。
よく見ると犬小屋サイズのキノコがわんさか生えているのだが、その中の一つがモゴモゴ動いている。
「あれ? 捕まえればいいの?」
「あ! お気をつけくださいね、あちら側から来た方が胞子を吸ったらどうなるかわかりませんので」
「え」
肩をポンと押された。
それ先行ってよ!!!
キノコワラシの動きが止まる。
死ぬかもしれないって何!!
ダメだダメだ!やりたくない!
けどやらないと帰れない!
とにかく動かなくさせればいい。そのはずだ。
まずは一旦ターゲットの動きを止めて落ち着こう。
そんな時はコレ!
「ええい! マヒ弾!!」
マヒ弾を投げだつもりだったがキノコワラシの頭にぶつかり、なんの変化もなく跳ね返ってきた。
「ピィ!!!!!!」
確実に怒らせた。
胞子を撒き散らかしてこちらに走ってくる。
「まずい! ドライアドさん! 死ぬ死ぬ!!」
「ちょっと! 何やってんの!! あんた操れるんじゃないわけ?!」
お前が勝手に連れてきたんだろうが!
顔面に般若のような怒り顔を貼り付けて向かってくるキノコ。
ゆっさゆっさゆれる傘からは胞子が溢れ出ている。
普通にキモい。
「きゃぁぁぁぁあ!!!この無能!!能無し!!詐欺師!!」
散々俺に対しての罵詈雑言を吐き終えたドライアドの手前に
キノコワラシが来た瞬間、小さくなって固まった。
「あっぶねー!! 一か八かだったけどトラップ式でも一応ホカクできるのか」
「…小さくなった?」
ドライアドは枝切れで先ほどまで動いていたキノコをツンツンつついている。
「大丈夫だよ、もうそれうごかないから。スゴイだろコレ」
「…す、すごい。私も欲しい…」
その後、この方法でキノコワラシを乱獲していった。
「てっきり魔法で魔物を懐かせていると思ったのですが…」
ドライアドは木の幹に体を隠してこちらを眺めていたが、30体を捕獲し終えたあたりで顔を覗かせた。
とりあえず目標の個数は手に入ったのだろう。
再びドライアドは俺を繋げて木の幹に割り込んで地中を駆け回った。
そして着いたのはドライアド達の集落だった。
「こちらが集落です、無礼な振る舞いをしたら殺しますのでじっとしててくださいね」
「それ、客人にする態度???」
けど木漏れ日が気持ちいい集落だ。
大きな木に橋がかけられていて、その橋に沿って建物が並んでいる。
村が半壊しているところから見ると、すでにバトルビートルの襲撃を受けていたのだろう。
「テンチョーさん、こちらが村長のオキナです」
「どうも、オキナです、遥々よくここまでいらっしゃった」
「あ、どうも。ゲーセンの店長やってます…」
また無視された。
俺を抜いてドライアドと議論を始めた。
「して、あなたは何故私たちに協力を?」
「その方が無理やり…」
ドライアドから嫌な視線を感じる。
「助けてって言ってたからですかね」
「あなた方はこちらを侵略する側なはず。申し訳ないですが良い印象がありません。なぜ手助けを?」
「ん? どういうことですか?」
村長の説明によると、以前人間たちが彼らの村を壊して回ったらしい。だからあまり良いイメージがないのだとか。
「そんな話、初めて聞きましたね」
「とても凄惨なことをされました。ただこの子はそれを経験してません。それ故、あなた達「ニンゲン」に話しかけることができたのでしょう」
「へえー」
「結果的に貴方は助けてくださったが、私なら怖くて声もかけられない」
苦虫を噛み潰したような顔を下に向ける村長さん。
「大丈夫、俺は基本善人だからね」
また無視された。
早速防衛の準備に取り掛かりたいと促されたのだ。
村の周囲に捕獲したキノコワラシを植え付ける。
「すごいですね、本当に胞子が出ないわ」
「私たちプランター族が吸っても痺れがすごくて大変なのに…」
「私たちでも捕獲すらできないのに」
周りがキノコワラシを触りながらザワザワしている。
そんな危ない代物だったのかこいつ…
「テンチョーさん、ありがとございました。これで長年募っていたバトルタートルの心配と不安は払拭されました。あなたならいつでも歓迎しますよ」
「いや、気にしなくて良いっすよ。あ、その代わりと言っちゃなんですが、ここら辺でスライムとゴブリン以外の魔物がいる場所教えてくださいよ」
「良いですよ、案内させましょう」
そこにドライアドが割り込んで入ってきた。
「私に!私に遠征の命をお与えください!」
「なに?」
「私はニンゲンについて知らなさすぎる!それ故、学ばなければいけません。彼なら安心して私を向こうの世界に連れてってくれるはず!」
「そんな危険なこと!」
「いえ!村長!私は行きますわ!行かせてください!テンチョー、早くそのビームで囲ってちょうだい!!」
は?!
腕を広げて目を閉じ食いしばっている。何やってんだこいつ。
良い予感が全くしない。
どうなるかわからないと再三注意をしたものの覚悟が決まっているようだった。
何を言っても「いける!」の一点張り。
どうなっても知らんぞ。手を広げたまま小さくなり、固まった。
そしてもう一度ビームを当てて復元する。
村長は顎が外れたまま何も言わない。というか言えないのだろう。
彼女の生存を確認して、木の幹を割ってもらい根に入り込んで移動する。
「つきましたよ、ここなら見たことない魔物に逢えますでしょう!そんなことより早く!ニンゲンの世界へ!」
海だ。
ここどこだよ。
「はやく!」
うるさいのでドライアドは捕獲し直した。
心なしか、固まったドライアドは気持ちよさそうな顔をしている。
説明もなしに、こいつ適当すぎんだろ。
—羽音
後ろを振り返ると顔ほどある蜂が迫ってきていた。
あぶねー!!!
必死に逃げる横目に映った海の中にも見たことない魚が多数泳いでいる。
そうだ!捕獲しなきゃだ!
さっきは機能しなかったマヒ弾を取り出す。
ん?!真ん中にスイッチがあるじゃん!
必死に走りながらスイッチを押す。
「うわ!動いた!」
弾が少し大きくなった、というより起動したのだろう。
振り返って蜂にぶち当てる。
途端、蜂の表情が一変し、針を飛ばしてきた。
あっぶな!! あれで死ぬのは絶対嫌だ。
グロテスクな想像を膨らませていると、蜂はマヒ弾から出た粉を吸って痺れ始めた。
「効いてるのか??」
恐る恐るホカクビームで囲んでみる。
小さくなって固まった。
よっしゃ! めちゃくちゃ使えるじゃんマヒ弾!
その調子でしばらく乱獲を続けた。
今日捕まえた魔物にあえて名前をつけるとしたら
「ハリマジロ、ドスコイ魚、ハート蜂、タイヤ蛇」
などなどだ。
ネーミングセンスについての言及はお断りする。
あらかた狩り終えたところで自分の状況を思い出した。
「あ…俺帰れないじゃん…」
浜辺で1人落ち込む。
孤独に耽っていると、遠くから人の声がするのに気がついた。
「え?! 人??」
音源に向かって必死に走る。
浜裏の森を必死で走る。
そこを抜けると鳥居の周りに群がる冒険者達が確認できた。
「なんでこんなとこに冒険者達がいるんだ…?」
山尾神社の鳥居と同じような使い方をしているようだ。人が出入りしている。
森の中から眺めていると向こうから怒号が聞こえた。
「テメェ!! そっちの森いくなっつったろ!! こっち戻れ!!」
俺は引っ張り出された。
「今日は帰れ! 約束を守れないなら来るんじゃねぇ!」
そういって鳥居に押し戻されて元の世界に戻った。
戻ったことは戻ったのだが、山尾神社ではない。
より古く、より大きな神社が目の前に広がっていた。
標識を見る。
「御嶽」と書いてある。
御嶽…といえば、沖縄?!
受付のお姉さんに確認する。
「はい、ここは沖縄県ですけど…何故ですか?」
「あ、いや、べつに」
「はて?」
今日俺に起こったことはなんだったのか。
キオスクから出てタクシーを拾い、空港を目指す。