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短編集

一番弟子に刺殺され魔法の無い世界に転生し不幸せになった元魔女が、幸せになるまでの物語

作者: 星乃カナタ

 私は生まれながらにして、天才の少女だった。

 周りからは天才、天才──まさに神の子、と褒め称えられた。周りの大人は、私なんかよりもずっと弱い。


 十歳を超えた頃には、私はその世界でほぼ敵なしになっていて。

 二十を超えた時には、敵はもういなくなっていた。


 それほどまでに、私には”魔法”の才能があり、──どうしようもなく、最強だったのである。


『ローズ・ライネクス』


 それは、この世界に伝わる最強の魔女。

 その真なる名前であり、


 私の名前──。


 攻撃魔法も防御魔法も、回復魔法も……簡単に操り、どんな魔法だって一瞬で習得してしまう。

 そんな最強の魔女。

 それが私だったのだ。


 しかし、そんな人生もあっけなく終わる。

 あっけなく、就寝間際の私を弟子が襲ったのだ。長い付き合いになっていた一番弟子、私が一番信頼をおいていた……弟子に心臓をナイフで刺されて、回復魔法を使う暇もなく絶命したのである。


 そして。


「はあ、ってなんで……そんな私が、こんな仕事をしているんでしょうか」


 私は転生した。

 転生して、今は女子高校生をしている。


 転生してから、約十七年。私はとても辛い日々を送っていた。毎夜、彼に殺された瞬間を夢に思い出し、夜な夜な泣いている自分。

 一番信頼していた人間に裏切られ、人生のドン底に突き落とされ、不幸せと呼べるに相応しい存在に私は変わってしまった。


 それに、不運なことだった。


「まさか、転生した先が……、”魔法のない”異世界だったなんて──」


 その世界の名前はよくわからないけれど。

 私がいま住んでいる国の名前は、日本という。そこで学生として、私は生きているのである。

 魔法が使えない異世界。

 不便すぎる、異世界。


 過去、栄華を築いた伝説の魔女。

 ローズ・ライネクス。

 別名。


黒赤(くろあか)(あかね)


 現在は女子高校生、JKをやっている。


「お母さーん、学校に行ってきますー」


「はいはーい。気を付けて行ってきなさい~」


「りょうかいー」


 朝の七時ごろ。


 黒髪のポニーテールを靡かせて、ステップしながら家を後にした。


 魔法が使えない生活というのは、不便すぎるモノだ。

 移動するのにも、空は飛べないから……通学するには、徒歩しかなく時間がかかるし、何より疲れる。


 ──この世界には電気やよくわからない液体やらガスで動く、自動車なるモノがあるらしいけれど。

 まだ私の身分だと、乗れないよと母に伝えられて絶望したのものだ。


 他のことは……この世界にある魔力代わり、電気というモノで賄っているらしいが。


 空を飛べないというのは、致命傷であった。


「はあ、走るの疲れるんだよな……。それに、数学とか、化学とか、わけわからんないし」

 ため息を漏らした。


 魔法の勉強なんかよりも、この高校生が習う勉強というものは……比にならないぐらい難しい。

 いくら元の世界で天才と呼ばれた私でも、あんな意味不明なコトをやらされればため息ぐらいつきたくなる。


 家から出て、十分が経過したころ。


「よう、茜」


「ん、ああ、水無月みなづきか」


「なんだよ、何か言いたげな顔してさ」


「うーん、いえ、何も思ってないわ……」


 そこで、同級生である双葉町(ふたばまち)水無月(みなづき)と私は遭遇した。車通りの多い交差点、歩行者用の白線道が青になるのを待っていると。

 彼がふと、話しかけてきたのである。


「本当かよ?」


「本当よ」


 黒髪。黒目。これが日本人の普通、ノーマルビジュアルであるらしい。


 しかし。

 彼はその中でも見た目が秀でているらしく、それでいて性格も良いということで……学校では、私なんかと違って絶対的な人気を築いている。

 

 どんな風に性格が良いのか、それを表現するのならば、そう。

 『みんなに優しい』。

 それが一番の言葉だろう。


 なにせ今やボッチとなっている私のことも、彼は気遣ってくれているのだから。


「なぁ」


 ふと、彼が言う。


「なに?」


「今日は何の日だか、知ってるか?」


「知らない……」


「え?」


「え」


 何の日だっただろうか。

 私は無神論者であるため、宗教関連による祝日などはあまり詳しくないのである。


「それ、まじで言ってる?」


「私はそういうのに疎いのよ」


「正解は、お前の誕生日───だと、思ってたんだが。もしかして、記憶違い?」


 あ。

 そこで私はやっと思い出す。

 そういえば、今日は、私が十七年前に生まれた日───いわゆる、誕生日だったのだ。


「……忘れてたわ」


「お前、マジかよ」


 マジ、なのだから仕方がないだろう。

 私は色々と、覚えるのが苦手なのだ。


「マジよ」


「マジ、なら仕方がねぇなぁ」


「でも、どうして?」


「どうしてって……、どうせならプレゼントをと思ってな!」


「優しいわね、私なんかに」


「俺と仲良くしてくれてる、お前……だからこそだけどな」


 どうやら、彼は誕生日プレゼントとやらを用意してくれていたらしい。


「???」


「まぁでも、ちょっと待っててくれよ」


「待っててくれ? もしかして……」


「悪いな、まだ用意してないんだ。まぁ安心しろ、俺は今日学校を休む」


「馬鹿じゃないの?」


「馬鹿で結構、そして俺は今からお前の誕生日プレゼントを買いに行く」


 だから、彼は制服ではなかったのか……。

 

「単刀直入に聞くけど、何が欲しい?」


「な、なんでも……」

 

「じゃあ、俺のおまかせってことで!」


 屈託のない笑顔を浮かべて、彼は走り出した。どうやら本気らしい。

 というか、もう行くらしい。

 なんていう性格の持ち主だろう……。


「そういうことで、じゃあな!」

「う、うん……?」


 彼は私に対して手を振って、折角、青になった交差点を通らずに……学校とは逆方向へと走っていってしまった。


 マジか…………。


 そんな感想しか浮かばないほどに、私は唖然としていたのだった。



 ◇◇◇



 学校が終わり、放課後。

 空は暁色に染まっていて、懐かしい風景が目に浮かぶ。元の世界でもこのように美しい景色は沢山あったから。


 思い出して、感傷にふけてしまうのだ。


「はあ」


 重い鞄を肩に背負って、帰路を歩く。

 隣の車道では車がびゅんびゅんと、素早く通っており……私を一瞬にして通り越していく。

 置いていく。


 魔法があれば、あんな速度一瞬で出せるのにな──。


 そう思いながら、ぼーっと歩いていると。

 朝と同じように。再び。

 "彼"が話しかけてきた。


「よう、茜」


 手を上げて、私の目の前から歩いてくる。


「久しぶり」


「久しぶりて……数時間ぶりだろ?」


「そうね」


「そうだな」


 彼は私の隣に来て、一緒に歩いてくる。右手には、ちょっとした黒のビニールが見えた。


「今日は何の日か、知ってるか?」


「それ、朝も言ってたわよ。もちろん。私の誕生日───」


「それもそうだが、違う」


「え?」


 何が違うのか。

 そんな疑問が出ている中で……、彼はビニール袋から何かを取り出した。


「これ、なんだ?」


「ち、チョコ?」


「そう。忘れたのか? 今日は、バレンタインデーだぜ」


「あ、ああ……そういえば、そうだったかもしれないわ」


 バレンタイン。

 聞いたことはある、行事だ。


「でもそれって、女性が男性にあげるようなもんなんじゃないの?」


「今は多様性さ、逆もあるだろう」


 そして。

 彼が出してきたのは、薔薇の形に、綺麗に整えられたーーチョコレートだった。


「それにしても、これ。薔薇よね?」


「───」


 彼は何も言わなかった。

 不気味な、絶妙に気まずい一瞬がこの場に流れて私は思わず唾を飲むのだが。


 次に彼は、衝撃の言葉を放った。


「端的に言おう」


 端的に。そう、簡素なもので。

 彼は言う。


「俺は君が好きだ、付き合ってくれ──」


 なんて、突拍子もないことを。

 私は驚くと同時に、胸がドきんと高揚した感覚を覚える。



……私のことが、好き?


「え?」


「嫌、だった?」


「いや、いやいやいやいや!!! えっ⁉︎ なんで……私なんかに告るのよ!」


 気が動転して、声が裏返る。

 恥ずかしい!


「そんなの、決まってるだろう。魔女様」


「は、はぇ?」


 そして更に、私は驚いた。

 私を魔女ーーと呼ぶなんて。そんなことはおかしいのだ。前世の私、その代名詞。

 それを彼が言い放ったことに関して。


「ここまで言わないと分からないか? ローズ」


「まさか貴方……!!」


 ローズ。魔女。

 その名を知っていて、私をーーローズなんて呼ぶ人間なんて一人しかいない。

 そう、私を殺した一番弟子。

 ジューンである。


「そう、俺は貴方の一番弟子にして、"元夫"ーージューン・ライネクスだよ」


「……本当なのね、そこまで名乗れるっていうのは」


 でも、なんで。

 なんで私を殺した貴方がーー目の前に。


「なんで、なんで、私の前にーー!! 現れたの……? 私を殺した、貴方が」


 そう私が叫ぶと、彼はその場で土下座した。

 まさか、今更許してくれとでも言うのだろうか?


「……違うんだ。アレは、君を殺したアレは。お前に恨みを持っていた宮廷魔術師によるものだったんだよ」


「え?」


「ーーアイツは俺に変装して、潜入して、お前を殺したんだ。ナイフでぐっさりとな。そのあと、後始末って言って──俺も殺された。呆気なくな」


 彼が吐露した事実は、あまりにも驚愕的だ。


「ごめん。俺はあんたの一番弟子で、夫だったのにも拘らず──君を守れなかった」


「…………」


「許して欲しい、とは言わない」


 だけど、どうか。

 彼は公衆の面前で、私に対して土下座しながら宣言する。


「だけど、ただ謝罪したくて。

そして、もう一度──君の笑顔を見たかった。しっかりと、前世のように。

一番弟子と師匠、夫と妻という関係でさ」


 ーーーそんな。


「なんで、私が……私だって分かったのよ」


「そんなの、雰囲気で分かるに決まってるじゃないか。それにわざわざ転生したんだ。お前とは離れ離れにならないだろうぅて、運命が言っていたんだよ」


 ニッコリと笑うジューン。

 私が一番信頼を置いていた、一番弟子であり。

 私が生涯で唯一愛した、唯一の旦那。


 そんな彼と再会し、私はーー涙をこぼさずにはいられなかった。


 ……そっか。そういうことだったんだ。


「──私の話、していい?」


「もちろん、断るわけ、ないだろう?」


「私はさ、ショックだったの。殺された時、刺された時。犯人が貴方だと思っていて……もう、誰も信用出来ないぐらいにはショックだった」


「うん」


「でも、それは全て勘違いだったようね。……そうよね、貴方が──私を裏切るはずがなかったわ」


 前世で。

 彼が私に言い放った言葉は、とても大見得を切ったようなモノだった。

 それは今でも、鮮烈に覚えている。


 今日のように。

 暁の光に噛まれながら、彼が私に告白したのだ。


『俺は君を一生愛す。一生尽くす。一生信じる。その為になら、故郷だって、大切なものだって、命だって捨てられる』


 その発言に、最強になり過ぎて孤独になっていた私は……救われたのだった。

 なつかしい。なつかしい感情が蘇ってくる。


「私こそ……ごめんなさい、ああ」


 涙が滴る。

 奇跡。

 まさに魔法のような奇跡の再会。衝撃の、反転する事実に私は──涙を流す他ない。


 今と昔。

 全てのジューンが重なって、見えた。


「ローズが謝る必要はないさ……、俺の方こそ謝らなきゃいけないだろう」


「そんなこと、」


「あるさ。君の一番弟子であり、夫であった俺がーーお前を守れなかったんだぞ。不甲斐ないと言う他ないだろう」


「…………」


「だから、俺は君にいう」


 土下座の状態から、顔を上げて彼は叫ぶ。


「その薔薇、そのバレンタインデーへの贈り物は正真正銘──本命の贈り物だ。

今度こそ、魔法の無い世界で君を生涯……俺は愛す。愛させて、ほしいんだ」


 立ち上がって、彼は述べる。


「今度こそ君を守り切ってみせる。

 今度こそ君が孤独にならないように努力する。

 今度こそ君が泣くことはないように望む。


 そして、今度こそ君を生涯愛してみせる!」


 だからこそ。


「だからーー、俺はお前に改めて告白しよう。

 ローズ・ライネクス。

 ジューン・ライネクスが此処に宣言する。

 

……黒赤(くろあか)(あかね)よ。

 俺と、結婚してくれ!!」


 結婚してくれって……。

 いくら、私たちは元夫婦だといえど。今はまだ、高校生の身分なのに。


 笑ってしまう。

 笑ってしまうほど、昔のように鮮烈で、衝撃的で、口下手で、心に響く。


 そんなものの答えは、決まっているだろう。

 瞳から雨をこぼしつつ、私は笑顔を振りまくつもりで返答する。


 いいや。

 くしゃくしゃの泣き笑顔だったかもしれないけれど。


「そんなの──断れるわけない。『はい』ってしか、言えるわけ……ないでしょう」


「ローズ!!」


 返答は当然だが、イエスだった。

 その刹那。彼は私に抱きついてーー私と同じように泣きながら、笑った。


 この瞬間。

 どこか、心の中で満たされてなかった私のことはーーー満水になる。


 ああ、忘れていた。

 幸せとは、こういうことか。


「ジューン……愛してる」

「ああ、ローズ。俺も同じだ」


 こうして私たちは世を超えて、運命を共にすることに、なるのだった。


 それから高校生、大学生とーーいわゆる交際をしたのちに。ローズとジューン。

 茜と水無月みなづきは社会人三年目ほどに、結婚する。

 人生二度目。全く同じ人と、全く違う世界で。


 私たちは再び結ばれるのだった。


 ああ、私は不幸せものなんかではない。

 幸せ者である。夜な夜な泣くこともなくなったし、悪夢を見る事もなくなった。

 目を開けば、いつも健気な彼がいる。


 最後に。私は彼に感謝を伝えたい。

 ーーー本当に。


 「ありがとう、私の一番弟子にして、生涯唯一、私が愛した夫さん。

 私は今、世界で一番幸せよ」


 マイホームで。

 膨らんだお腹を見ながら、私はお笑い番組のついたテレビを見て爆笑している父親を見て、そう笑顔で感謝を伝えたのだった。


 本当だ。世界で一番幸せだ。

 そう言いたいぐらい、私は幸せ者である。


 魔法がない世界で。

 魔法みたいに奇跡的な、円満な夫婦生活を、いいやーー家族生活を。

 私たちはこれから送っていくことになる。


 ありがとう。

 薔薇の花言葉『美と愛』を、次は私がーー貴方に捧げよう。

この幸せにものメッ!!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


幸せだなぁ、純愛だなぁ、青春? だなぁって思った方は【☆☆☆☆☆】に色をつけたり、ブックマークをしていただけると、小説を書く励みになり、嬉しい限りでございます。

 

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