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第一話 卒業後の進路はお姉さんのヒモ?

 十八歳で高校三年の俺、野村裕樹のむらひろきは数日前に全ての大学受験に失敗してしまい、途方に暮れていた。

 しかも両親に浪人は駄目と言われていたので、就職か専門学校への進学かを選ばないといけなかったが、就職などしたくなく、かと言ってやりたい事もなかったので、専門への進学も気乗りしなかったが、卒業までに決めないといけないので、悩んでいた。

 もし、卒業までに決めないと、家から追い出すなどと言われてしまい、頭を悩ましていた所で、何年も会ってなかった遠い親戚の彼女が家を訪れて来たのであった。


「まあ、佳織ちゃんじゃない。お久しぶり」

「お久しぶりです、おばさん。すみません、用があって近くまで来たんで、お邪魔しちゃいました」

 卒業式直前の三月の昼下がり、俺のはとこにあたる水口佳織が家を訪れ、母親が笑顔で出迎える。

 佳織さんの母親と俺の母親が従姉妹同士で仲が良かったので、その縁で昔はよく佳織姉さんの家に遊びに行っていたが、もう五年近く会っておらず、最近は疎遠になっていた。

 が、正直、会わせる顔もなく二階の部屋に閉じこもっており、ベッドにくるまっていた。


「やっほー、裕樹君、お久しぶりー」

「げっ……」

 早く帰らないかとベッドにくるまっていた所で、母親が二階にあげてしまい、佳織姉さんが俺の部屋に勝手に入ってくる。

 肩くらいまでの黒髪に、パッチリした可愛らしい瞳、ベレー帽を被り、カジュアルなブラウスにミニスカート、そして黒のニーソックに身を包んだ可愛らしい服装をしており、何より、前に会ったよりも遥かに美人になっており、眩しいばかりの笑顔に思わず見とれそうになってしまった。

 確か、俺より五歳上だったから、今、二十三歳だったかな?

 昔はもう少し地味だった気がするけど、きれいになったなあ……。

「もう、どうしたの、折角来たのに、挨拶もしないで」

「いえ。すみません、そんな気になれなくて」

「むう? 何で?」

「別に……佳織姉さんこそ、どうしたの?」

「私、ちょっと近くで仕事の打ち合わせがあってね。その帰り」

「ふーん」

 仕事の打ち合わせと言うが、今、何をやってるんだっけ、佳織姉さんって?

「もう高校も卒業なんでしょう? 四月から、何するの? 大学生?」

「ニートです」

「は?」

 と、半ばヤケクソ気味にそう答えると、いつも気さくな佳織姉さんもあっけに取られた顔をする。

「受験に失敗して進路決まらなくて」

「何だそうなんだ。浪人しないの?」

「親から駄目って言われてるんで。ウチ、貧乏だし」

「そうかなー。結構、良い家住んでるじゃない」

 その自宅のローンが家計を圧迫しているらしく、浪人が駄目と言うのだから、ちっとも嬉しくもない。


「佳織姉さんって、何やってるの?」

「今、お絵かきの仕事。イラストレーターだよー」

「イラストレーター? 凄いじゃないですか」

 そう言えば、佳織姉さんは昔から絵が上手く、よくアニメや漫画のキャラクターの絵を描いてもらっていたのを思い出した。

 子供の頃、漫画家になりたいとか言っていたが、趣味を仕事にしちゃうなんて凄いじゃないか。

「別に凄くないけど。何だ、悩みがあるなら、相談に乗るよ」

「悩みまくっているんですけど、進路どうしようかなって。いっそ、誰か養ってくれないですかね、はは」

 充実した人生を送っているらしい佳織姉さんの笑顔が眩しく、嫌味も込めて、そう吐き捨てると、佳織姉さんも少し考え込み、

「何か、ヤケクソ気味になってない? ヒモになるなら、料理くらいは出来るようにならないと」

「料理は少しは出来ますよ」

「へえ。そっかー……」

 実際、家庭科の調理実習は好きだったし、家でも料理の手伝いはしているので、そこそこ自信はある。

 が、もちろん、料理を仕事にする気などなく、あくまで趣味でやる程度だし、何でも作れる訳じゃない。


「じゃ、家に来る?」

「は?」

「私の家に来ない? 家事をやってくれるって条件付きで、しばらく私の家に寝泊りしても構わないよ」

「…………本気で言ってます?」

「うん。これから、仕事、忙しくなりそうでさー。在宅の仕事とは言え、家事や買い物の時間も惜しくて。私も仕事に集中できる環境づくりしたいの」

 在宅の仕事って事はフリーなのか、今? だったら、家事くらい出来ないのかと思いながらも、

「どう? お小遣いもあげるからさー」

「良いですよ」

「やったー♪ 決まりね」

 冗談で言ってるんだろうと思い、軽い気持ちで返事してしまうと、佳織姉さんも喜んで手をあげる。

 お小遣い付きで、こんなきれいなお姉さんと暮らせるなら、悪くないと思いながらも、流石に冗談だろうと思い、その時は愛想笑いして話を続け、間もなく佳織姉さんも帰ってしまった。


 そして卒業式を終え、進路も決まらないまま、四月一日の朝を迎えると、

「おはよう、裕樹君」

「な、何ですか、こんな朝から?」

「迎えに来たよ」

「はい?」

「今日から家に来てもらうから。お姉さんと二人で暮らすの。ほら、さっさとしたくして、おばさんもおじさんも了承済みだから」

「え、え?」

 と、いきなり俺の家に押しかけてきた佳織姉さんが一方的にそう告げ、事情も飲み込めないまま、家に上がり、

「はい、これ、裕樹の着替えと、日用品。あと、必要な物あったら、送りなさい」

「…………」

 俺の着替えなどが入った旅行バッグを母さんが俺の前に置き、さっさと出て行けと促す。

 マジで追い出す気かよっ! つか、もしかして厄介払いの為に俺を佳織姉さんに家に……。

「よろしくお願いね、佳織ちゃん」

「はーい。んじゃ、行こうか、私のマンションに」

「ちょっ! 待てってっ!」

 早速、佳織姉さんに手を引かれて、家から連れ出され、殆ど追い出される形で、佳織姉さんの家にあるマンションに連れ込まれる。

 こうして、俺と佳織姉さんの同居生活が始まってしまい、ヒモとしての新たな人生がスタートしてしまったのであった。

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