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頭が痛い。
眠りたい。
もう疲れた。
仕事を押し付けて浮気ばかりの婚約者も。
婚約者が悪いのに私のせいにしてくる周囲も。
最近は婚約者や側近達が妙に楽しそうにしているから、何かを仕掛けてくるとは予想がついていた。やっと婚約破棄されて自由になれると期待したら、騎士に乱暴に掴まれて地下牢に入れられた。
どうせ家に帰っても「王子の心をつなぎとめられなかった役立たず」と罵られて勘当されるだけだ。
それか、婚約破棄されて碌な嫁ぎ先がないのをいいことに側室にでもされて仕事だけさせられるかもしれない。そうなるとまたあの元婚約者の尻拭いだ。
もうウンザリ。
貴族専用の牢に入れられなかった上に、看守はこちらを一瞥して立ち去ってしまった。
他の囚人たちは看守が完全に立ち去ったのを見て、卑しい笑みを浮かべて私のいる牢に近付いてくる。
ここまでされる謂れはあるのだろうか。
そんなに私の存在は邪魔だったのだろうか。婚約者の恋人にいじめなんてしていないのに。
ひたすら勉強と尻拭いに追われて、最後はこの囚人たちの慰み者になれということなのか。
すでに絶望していたので、さらなる絶望は襲ってこなかった。
誰かに助けて欲しいなんていう願望はとっくの昔に捨て去っている。
取り上げられなかった髪飾りを髪から外す。
すでに地下牢に運ばれるまでに髪はぐしゃぐしゃなので髪飾りの体をなしていない。
何かあった時はこれで尊厳を守るために喉を突いて死ぬ。
おかしくなって思わず笑った。
笑うのは久しぶりだ。やっと解放される。
しかし、髪飾りを持った手は誰かに握られていた。視界の端に騎士らしき服が一瞬見えたものの、すぐに浮遊感に襲われる。
そこから先は記憶がない。
「う……ん……」
自分の口から漏れた声で目が覚めた。
ゴリゴリゴリゴリゴリ
体が重い、そして怠い。喉がカラカラだ。頭も痛い。
起き上がると腰も痛い。最悪だ。
ガリガリガリガリガリ
見覚えのない部屋と大きなクマのぬいぐるみ。そして先ほどから耳につく何かをすりつぶすような音。
ここはどこだろう?
ぼんやりした頭が徐々に覚醒する。部屋の中を見回すと、誰かがいた。
その人は立ってゴリゴリと何かをすりつぶしている。部屋がそれほど明るくないのではっきり見えないが、ほっそりした体格なので女性だろう。
その女性が振り返った。
「ひっ!」
体は人間なのに、頭は鳥。
「あ……き……気が付い……た?」
たどたどしいが鳥人間?が喋った。
「み……みんなに……知らせないと……」
恐怖とショックで何も言えないでいると、その鳥人間はくるくると指を空中で振った。指は人間のそれであった。別に鋭い爪はついていない。
三羽の小さな白い鳥が空中に突如現れる。鳥人間がバイバイと手を振ると三羽はそれぞれ違う方向へ飛び立った。
「えと……まだお熱……あるかしら? それとも……お水……とか?」
鳥人間は手を拭きながらこちらに近付いてくる。
手を拭いているタオルは赤く染まっていた。まさか……。
「こ……来ないで!」
掠れた声しか出なかった上に月並みなセリフだ。
そんな言葉で止まるはずがないのに、鳥人間はその場でピタリと止まる。
「あ……えっと……」
なぜか鳥人間が困惑している。困惑したいのはこちらの方だ。
手を拭いていたタオルがパサッと落ちる。
「ひぃっ!」
鳥人間の手、人間らしき手だが掌辺りまで真っ赤に染まっていた。
「あ……えっとね……これは……えと……間違って……」
挙動不審の鳥人間。アワアワと慌てながらも「来ないで」という言葉を律儀に守り、その場からは動かない。
「ど、どうしよう……えと……あのね……」
「何をしておるんじゃ、スカイラー」
「ひっ!」
ふてぶてしい声がどこからか聞こえた。