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いつもお読みいただきありがとうございます!

魔女達はスコーンを食べながらしげしげと水晶に注目していた。

水晶に映るのは薄暗い地下牢だ。


「だーかーらー、急に現れた大女が連れ去ったんだって!」


「看守も警備の騎士も大女を目撃していないから嘘をついているんだろう。公爵令嬢をどこへやった?」


「看守たちなんてさっきまでいなかったじゃねぇか! サボってカードゲームしてたんだろ? それにあの女をこの地下牢に連れて来た令息たちが『好きにしていい』って言ったんだぜ?」


「はぁ、拷問でもしないと吐かないのか」


「違うって! ありゃあ絶対魔女の仕業だ! 俺達がどうやって人一人隠すんだよ!」


薄汚れた囚人服の男達と騎士達がギャアギャア揉めている様子が水晶に映っている。騎士達は囚人達を鉄格子の隙間から槍で突く。



「ぶぶぶっ。オルタンス、大女だと言われておるぞ」


「身長が平均より高いのは否定しない。というか懐かしいな。魔女になる前はよく陰口で言われていたな」


「……でも……本当にあの子……地下牢に入れられてたのね……」


「会話によると公爵令嬢だっぺや。地下牢じゃなくて普通、貴人牢に入れるはずだっぺ~」


「酷い話だろう。他の女性に現を抜かして彼女との婚約破棄を夜会で宣言した王子の独断だ」


「……これは……助けちゃうのも……分かるかも……彼女の……尊厳が……傷つけられちゃう……寸前だったもの」


「アビゲイルが介入していないなら他の魔女の仕業か?」


「魔女が介入して、というか魅了を使って婚約破棄もあるが、それを見て『俺も婚約破棄してもいいのかも』と考える輩もいる。今回はおそらくそれだと考えている。魔法の気配がない」


「うわぁ……」


「アホだっぺや~。んにゃ、国王夫妻は外遊中か。こりゃあ国王夫妻が帰国したら大問題になるっぺやー。この子の捜索も始まるっぺ」


「ふん。大体こういうのは卒業パーティーか親のいぬ間に起きるのじゃ。親の内どちらかがきちんと目を光らせておけばいいものを」


「うちにいれば捜索だろうと追手だろうと来ないさ。ゆっくり修行ができるな。修行が終わればざまぁしたらいいだろう?」


ニヤッとオルタンスは悪い笑みを浮かべる。


「もうお主の過去そのまんまじゃないか。これが運命でなくて何だと言うのじゃ」


「……歴史は繰り返す……のね……」


「オルタンスが引き寄せただけかもしれないっぺや~」


魔女達が好き勝手に喋っていると、苦悶の声が聞こえた。魔女達はお喋りを辞めて慌てて振り返る。

苦悶の声は先ほどベッドに寝かせた少女からだった。


「わぁ……すごい……熱……えと……解熱剤は……どこだっけ……」


「ストレスだっぺか?」


「オルタンス、お主、さっきもうこの子を魔女にしたと言ったか?」


「あぁ」


「早すぎるのじゃ! 婚約破棄騒動のストレスもあるが、いきなり地下牢に放り込まれて囚人に襲われかけたんじゃぞ? その上、魔女にしてしもうたなら魔力のコントロールにかなりの体力が要るのじゃ!」


「あ~。魔力が体に馴染むまでってしんどいべ。オイラは魔女にされて二週間寝てたっぺ」


「う……うん……最初はやっぱり……キツイよね……一ヵ月寝込んだし……」


スカイラーは冷たいタオルを少女の額に乗せてやる。


「キツイ目におうた少女にさらに負担をかけるとは! 下手したら死ぬんじゃぞ?」


「分かってる」


「じゃあなんでさっさと魔女にしたんじゃ! ここに連れてきて休ませてからでも良かったじゃろうが! お主が見つけなかったら妾が逆行の魔法をこの子に使ってやったのに!」


魔女の数がそれほど増えないのはここに理由がある。

魔女によって魔女にされたとしても、魔力が体に馴染むまで耐えきれなければ待つのは死だ。


「……シャル……今のあなただと十分な逆行の魔法は……使えないから……無理」


「シャルは立て続けに逆行の魔法を使いすぎたっぺ。それじゃあこの子を過去には戻せないっぺよ」


「この子、『もう疲れたから死にたい。いっそ殺してくれ』って私に言ったんだ」


オルタンスの答えに三人は口を噤む。シャルロッテは無謀とも言えるオルタンスの行動に怒りで肩を震わせていたが、オルタンスの言葉にまた激昂することはなかった。


「助けて休ませても、きっとこの子はまた死にたがる。だから魔女にした。耐えきって魔女として目覚めたら生きる気力が湧くんじゃないかと思った。私のエゴだというのは分かっている」


オルタンスは淡々とした口調だが、その表情はとても悲しそうだ。


「この子が耐えきって魔女として目覚めたら、少しでも生きたいと思えてるんじゃないかと。だって、魔力が体に馴染むまでってしんどくて嫌な事ばっかり考えるし、思い出すだろう? それを乗り越えたらまた新しい人生を歩める気がするんだ。私みたいに」


「ふん」とシャルロッテが不機嫌そうに鼻を鳴らす。プイと顔をそむけてしまった。


「……あとはこの子……次第だね……」


スカイラーは水や氷を魔法で出している。


「仕方ないべ。乗り掛かった舟だべ。この子が目覚めるまで交代で見とくっぺや~。交代で寝たり、仕事に出かけたりするっぺ」


「基本……引きこもりだから……大丈夫。みんな……仕事に行ったら……いいよ」


「助かる」


「ふん。もっと妾達に感謝するのじゃ。遅刻したうえに面倒までかけおって」


冷えたタオルのおかげなのか、少女の苦しそうな表情こそ変わらないが苦悶の声は止んでいた。


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