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小さな夢物語  作者: ぴー博士
1/1

1.終わりの始まり

ジリリリリ


目覚まし時計のけたたましい音が鳴り響く。


「......うるさいなぁ」

私は音のするほうに手を伸ばし、目覚まし時計を止めた。


「う....ううん」

私はゆっくりと体を起こすとリビングのほうへ歩く。


「おはよう、あら....今日は自分で起きれたのね」

お母さんが珍しそうに話す。


「私もう高校二年生だよ。当たり前じゃん」

私はテーブルに着き、食パンをかじり、牛乳で流し込む。


「ごちそうさま」

私は制服に着替え、長く伸びた黒髪を櫛でとく。


「行ってきます」

靴を履いた私は玄関を開け、学校まで歩く。私の家は二階建ての一戸建てで、学校までは歩いても5分もかからない。控えめに言って、とても便利だ。


いつも通り角を曲がり、学校の門が見える。だがしかし、今日は門の前に人影が見えた。

普段なら門の前には誰もいないはず....

その人影は、ピエロの姿をしていた。


「さあさあやってきました、劇団ドリーム!あなたに最高のショーをお届けするよぉ!お、キミ、よかったら来てくれないか」

ピエロは私にチラシを配ろうとした。


「結構です」

私はピエロの横を素通りして学校の門をくぐった。


教室につくと、生徒はいつも通り各々のグループで雑談をしていた。そして、たいてい私が自分の席に行くと、慌ただしく私のほうにくるのだ。


「おーっす!ちさっち、おはよー!」

ショートヘアーの女子生徒....ミオが挨拶とともに、私の肩に手を置く。


「ミオ、おはよう。朝から元気だね、何かあったの?」


「よくぞ聞いてくれました!実は私の推しのアイドルがこの町に来るんですよぉ!もう、興奮が収まらなくって」

ミオは目を輝かせて私に語る。


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入る。

「はい、皆さん席についてくださいね。出席を取ります、えーっと全員いるようですね」


私はふと、自分より一つ前の席が空いていることに気づいた。誰か....忘れてはならない人がいたような......



私はとっさに先生に言ってしまった。

「先生、欠席者が一人います」


教室中にくすくすと笑いがこみ上げる。


「夢原さん寝ぼけてるの?全員揃っているじゃない」

先生は呆れた顔で私に言った。


「でも、そこの席が空いてます」

私は教卓の前の席を指さした。


「あたりまえでしょう。もともと余っている席なんだから」


クラスメイトが、変な人を見るような目で私を見てくる。


おかしい、普通なら、その席には男子生徒がいたはずだ。

私の記憶の中のその生徒はいつも寂しげで、誰とも話さずずっと本を読んでいた。


「寝ぼけてるの?顔でも洗ってらっしゃい」

先生にピシャリと言われ、私は廊下にある手洗い場まで行った。


バシャッ

蛇口から出た冷水で顔を洗う。私の記憶違いだったのかもしれない。でもなぜか私は腑に落ちなかった。


蛇口の水を止めてハンカチで顔を拭く。

(はぁ......早く帰りたいなぁ)

大きくため息をついた私は教室へと歩いた。

ふと廊下の窓を眺める。まだ朝だというのに、空は不気味なほど真っ赤に染まっていた。


「え......」

その言葉を発し、私が呆然としていると私のクラスの教室の扉が開いた。


「早くしろよ!」

「わかってるよ」

クラスの男子たちがカバンを持ち、足早に走っていく。


「あ、ちさっち!」

ミオもカバンを持って教室を出る。


「え....ホームルーム終わった?もう帰るの?」

私が驚きを隠せないでいると、ミオは当然であるかのように私に説明した。


「当たり前じゃん、もう授業も終わってるからね。それじゃあ私、この後家の用事あるから」

ミオはそう言うと家に帰ってしまった。

誰もいなくなった教室に入る。



あの子が本当にいないのなら本はないはず......

私は教卓の前の席の机を調べた。教卓の前に座っていた子はいつも本を机の中にしまっていた。本当にいないのならその本もないはずである。


「あった!」

私が取り出すと本に引っかかった何かが落ちる。拾ってみると、それは鍵の形をした金色のペンダントだった。ペンダントを裏返すと、『身に着けて』という文字が乱雑に彫られていた。


私はペンダントを身につけ、本をカバンにしまった。とにかく家に持ち帰ってから考えることにした。


学校の門を出ると、あのピエロが肩をがっくりとして立っていた。


ピエロは私を見つけるとすがるように頼んできた。

「お願いします!一枚だけでももらってください。じゃないと私帰れないんです」


私は仕方なくチラシを一枚もらった。


「ありがとうございます、ありがとうございます。アッハハハ!」

ピエロは最後に不気味に笑って走り去っていった。


チラシに目をやると、『黒い夢』というタイトルと、制服を着た黒髪の女の子が、ナイフを自分の胸に刺している絵が描かれていた。その子がとても私に似ていて少し怖くなった。

私は急いで家に向かった。


「ただいま」

私は玄関の扉を開け、家の中に入る。中は明かりがついていなくて薄暗かった。停電でもしたのか、電気のスイッチを押したが、明かりはつかなかった。

「あれ、故障かなぁ?」


私は自分の部屋にカバンを放り投げ、リビングへと向かった。あまりにも静かな廊下が今までにない不気味さを醸し出している。

リビングにお母さんの後ろ姿が見える。しかし立ったまま、魂が抜けたようにピクリとも動かない。


「ただいま、お母さん」

私が話しかけるとお母さんは、ひっくひっくと泣き出した。母はいきなり振り向き、私の首を絞める。


「どうして私を苦しめるの?あなたのせいよ、あなたが私を!」

ヒステリックに泣き叫ぶ母に首を絞められ、私は訳が分からなくなる。いつもは明るい母なのにどうして....。

【殺される】私は本能的にそう感じた。私は必死に暴れだし、何とか母の手を振りほどくことができた。

そのまま私は玄関へと向かい、ドアを開けて外に飛び出した。しかし、そこには地獄のような光景が私を待っていた。


外には、顔に黒いモヤモヤがかかった大人たちが、狂ったような笑い声を上げ、チラシを配っていた不気味なピエロは誰かをナイフでめった刺しにしていた。


そしてその大人たちは私に気づくと、大きな声で私を罵ってきた。


「お前はいらない子だ」


「お前なんかいなくなればいい」


「お前は嫌われ者だ」


「恥を知れ」


いつの間にか私の周りを囲むようにして大人たちが罵倒してくる。


「嫌......そんなこと言わないで」

大人たちの威圧感と聞き覚えのあるセリフに私は恐怖を覚えた。


「私はいらない子なんかじゃない....」

「だから......」

溢れそうな涙をかろうじて目にとどまらせる。しかし、ふと耳元でお母さんの声がした。


「全部、あなたのせいなのよ」

しかしその声は禍々しく、私の知っているお母さんのものとは思えなかった。


お母さんは、慌てて振り向いた私を押し倒し、両手で私の首を絞めてきた。

「許さない....許さない..ユルサナイ!」


皮膚が溶け、ところどころに見えている骨が、お母さんの恨みの強さを物語っている。

私は自分の首を絞めている手をどけようとしたが、お母さんの力があまりにも強く、どけることができなかった。


お母さんは私の首を片手で絞め、腹部に刺さっていたナイフを抜き、私に振りかぶった。

(ああ....もうだめだ)

私は目をつぶった。

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.


「は!」

....気が付くと目の前には青空が広がっていた。いや、正確に言うと私があおむけになっていた。花の甘い香りがあたりに充満している。

(今のは......夢....?)


私はあたりを見渡す。私が寝ていた場所は自然にできたお花畑で、それを囲うように森が広がっている。

「....よかった」

さっきまでとは全く違う、のどかで平和な光景に私は安心してつい、気を失ってしまった。


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