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捨てられ令嬢はお見合いに向かう途中の魔術師に拾われる ~たぶん相手、私です~

作者: 笹 塔五郎

 私――リーズ・ティレットは、これから死ぬ。

 それはもう分かり切ったことで、私も受け入れることにしました。

『魔の森』と呼ばれる場所で、私は一人取り残されています。

 ここは……『化物』が棲みつく場所。化物は、『魔力の多い女を寄越せ』と命令してきたそうです。

 そこで選ばれたのは、この地を納める領主の娘である私でした。

 領主の娘と言っても、私は両親からの愛情を感じたことはありません。

 三人目の娘はいらない――それが、父と母の言葉でした。

 洋服も食べ物も満足に与えられず、なんとか十二歳になるまで生きてきた私は、ようやくこのひどい人生を終わらせることができるんだと、そう思ってしまいました。

 だから、こんな場所に残されても、恐怖など微塵もありません。

 鬱蒼とした森の中……周囲から感じる視線は、魔物のものでしょうか。

 どうやら、いつの間にか私は魔物に囲まれていたらしいです。……この際、魔物に殺された方が、まだ平和的に死ねるのかも――そんな風に思った時でした。


「……」


 ザッザッと足音を立てて、何かが近づいてきます。

 草木をかき分けてやってきたのは――ローブに身を包んだ、長身の人でした。

 フードを目深に被っているので、その表情を窺うことができません。

 彼は私の目の前までやってくると、ゆっくりとした動作でしゃがみ込みました。


「君、一人?」

「……はい」

「そうなんだ。どうしたの、こんなところで」

「……待っています」

「待つ? なにを?」

「私を殺してくれる、化物」


 私は素直に答えました。

 すると、ローブの人は困ったような仕草を見せ始めます。


「うぅん……? 君は死にたい……ということか? 困ったな、これからお見合いの予定があるのだが」

「お見合い……ですか?」

「そう、そうなんだよ。実は僕、こう見えて結構な年齢の魔術師でね。そろそろ結婚を考えているんだが……やはり結婚相手に選ぶのなら、魔術をうまく扱える人がいいと思ってね。『魔力のたくさんある女性』をお願いしたんだ」

「……?」


 私は思わず眉を顰めてしまいます。彼の言っている言葉は――どことなく私が聞いていたことと、同じだったからです。

 確か、化物の名前は……


「レディン・グレゴリー……?」

「! いや、僕の名前を知っていたのか。僕がそのレディンだよ。名前を知っているということは、僕が魔術師であることも知っているかな?」


 そう言って、彼はフードを取りました。

 そこにあったのは、化物の顔ではなく……紛れもなく人間のものでした。

 整った顔立ちに、黒く長めの髪。長く生きているという割には、随分と若いように見えます。

 彼――レディンは、何かに気付いたような表情を浮かべます。


「ん……よく見たら鎖に繋がれているじゃないか。それに、僕の名前を君が知っているのは……んん? もしかして、君が僕のお見合い相手、なのかな?」

「えっと……お見合い相手というか、生贄として、ここにいますが、たぶん……私です」

「……」

「……」


 お互いに向かい合ったまま沈黙。

 レティンは何か考え込むように空を見上げて、大きくため息を吐いた。


「……そうか。普通に見たら、僕は供物を要求する化物的な立ち位置というわけかな? ははっ、普通に求めたつもりだったけれど、どうやら話が歪曲して伝わってしまったようだ。使い魔を使ったせいかな?」

「使い、魔?」

「ともかく、申し訳ないことをしたね。すぐに君のことは町へと帰そう。次は、きちんと僕が直接話を付けようと――って、どうしてそんな悲しそうな表情をしているんだい?」


 レディンの問いかけに、私は思わずハッとしてしまいます。……ああ、私はようやく死ねると思ったのに、またその機会を逃してしまいました。

 だから、自然とそんな表情になったのかもしれません。


「……思えば、君は生贄としてここにいると言ったね。それはつまり、君はここに捨てられた――そういうことかい?」

「……はい、そうです。私にはもう、帰るところなんて、ありません。だから、町に帰していただく必要も、ありません」


 どのみち生贄として差し出されたのだから、このまま置いていってもらった方がいい。

『生きて戻ってきた』って、誰も喜んだりしないのだから。

 そう考えていると、レディンはまた考え込むような表情を見せていました。


「……」

「……あの?」

「君、名前は?」

「え、リーズ・ティレット、です」

「リーズか、可愛らしい名前だね。ではリーズ――君は僕の生贄として差し出された、そういうことだね?」

「はい、そういうことだと、思います」

「そうか……よし、ならば今回はそれでいいだろう」


 レディンはそう言うと、私の首輪に繋がる鎖に触れました。すると、鎖がまるで腐ったかのように消滅していきます。


「え、え……?」

「驚くことはないよ。腐食の魔術を使っただけさ。さて……今日から君は、私の弟子ということでどうかな。期間は君が大人になるまで。それで、独立した魔術師になりなさい」

「! ど、どうして、そんなこと……」


 レディンの提案に、私は思わず驚いてしまいます。

 彼は花嫁を要求していました。それは手違いで、私のような子供が森に捨てられていて、魔術師である彼には何も関係はないことのはず……。


「なに、『単なる気まぐれ』だよ。僕くらいの魔術師になれば、たった数年くらいは短いものさ」


 そう、レディンは笑顔を浮かべて言いました。

 私の身体を抱えて、レディンは森の中を歩き始めます。

 ――これが、私と彼の出会いでした。

 そして私が、彼のお嫁さんになるのは、私が魔術師になる数年後のお話です。

また好きな雰囲気のお話を書きました。

いつも歳の差になってしまいますねえ!

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