ソドムの街で味わうのは。コーラ。
耳鳴りは心地いいほどに響いている。揺れる鼓膜は僕が生きている証。時計の針は23時過ぎを指している。湯船に浮かべた少女の死体が腐乱していくのも時間の問題だ。悩みとか苦しみとか痛みとか。美醜の分かれ目とか善悪の彼岸とか此岸とかどうでもよくて。それよりも啜るコーラの味わい、薬にも似た苦みが胸と脳髄に染みる。隣に住んでた資産家令嬢が不協和音のピアノの音を奏でていたのは、2年も前の話だろうか。彼女は親に首根っこを掴まれてあるべきおウチへと帰っていったよ。いい話だ。それは正しいことだ。この区域は白鳥の死骸に官能を覚えたり、うごめく鼠を蚊程度にしか捉えなかったり、ウォッカで処女膜を貫通させるような気狂いじみた男たちの場所だから。いない方がいい。なるべくなら離れて、距離を置いて近づかない方がいい。そんな場所だ。
時折一秒一秒を生きる感覚が隆起する。
時折神の惨殺体を想起する自分がいる。
時折薄汚い心と体に塗れて快楽を得る。
時折ハデスのような雄叫びに興を見る。
時折
時折
時折
時折修復のつかない衝動で舌なめずりをしてその視線の先に少女の切り刻まれた死骸をイメージする
悪い癖だ。僕の。僕の非常に。そして非情なまでにアンバランスな悪い癖だ。
色恋沙汰で苦しむような若い女をここに招待してやりたい。ここは全てに免罪符が降りた空間だから。血眼になって美徳を探してもそこには何もありはしない。崩壊と衰退。文明の衰退があるだけだ。テクノロジーの進化とともに培ったのは忌むべきことに原初の欲望だったってわけだ。ソドムとゴモラの街がどれほど腐敗していようと僕たちの猟奇には敵わない。だって神は僕らを制裁することさえ出来ないのだから。するつもりもないかもしれないね。何と言っても神は殺されたのだから。ピアノの不協和音は耳に快かったが、あの娘は来るべき街を間違えていたようだ。彼女は前衛のある、先進なアーティスト崩れの街だとここを誤解していたのだから。彼女は強引な親の引く手がなければ、今頃浴槽の少女の死体の代わりになっていたことだろう。
僕は知っている。
みんなが劣情の虜になりながらも、
表では良識の塊のような顔をする。
僕は知っている。
愛という名の弾薬は装填されずに、
みんなが魂の残骸を拾い集めてる。
僕は知っている。
何もかも。友達も両親も恋人も、かつての妻もどこかへ行ってしまった。僕は賭けをやるだけだ。ただひたすらに。ガイストなんて存在しない方に賭ける賭博を。ほら。そろそろ君の閾値も限界だ。限界だ。限界だ。ほら。薄汚れた言霊で体中が穢されて後には戻れない。ほら。全ての人間が、人類があっち側に行ってしまった。僕は知っている。
もう取り返しがつかないよ。