決戦! 『なるうコン小説大賞バトル』
文字数、ジャンルに制限のない『なるうコン小説大賞バトル』には、当然だがすべての小説キャラを参戦させた。
闘技場に降りたつ俺の育てた十三の小説キャラ! 凛々しいまでに成長を遂げている。
闘技場の地面は赤色に染まっていた。数多くの死闘がここで繰り広げられたのであろう。
「散れ!」
「「おお!」」
密集していては、一瞬に殲滅される恐れがある。幸いにも近くに強そうな敵キャラはいない。体力ゲージが点のような、締め切りギリギリを狙って参戦してきたキャラがまばらにいる。
「ぐわああ!」
「どうした! 「俺との同窓会」」
敵と接触したようには見えないのだが、「俺との同窓会」の体力ゲージが見る見るうちに失われる。
「毒のトラップだ! トラップが張り巡らせている!」
「「な、なにー!」」
なんて凶悪な特殊攻撃なんだ! まったく目に見えないじゃないか!
「くそー、俺、ダンサーなのに、一度も踊らずにやられるなんて……」
「諦めるな、今、回復魔法をかけてもらう」
辺りを見渡す。回復魔法が唯一使える「転生ブロイラー」を探すが、見当たらない!
「「転生ブロイラー」は何処へ行ったんだ!」
「とっくに落とし穴に落ちて消えましたよ」
「なにー!」
出現場所の下が落とし穴だったらしく……その無念に目を閉じる。そして、目の前の「俺との同窓会」も、透明になって光と共に消え去った。
どうしたらいいんだ!
トラップを見破る特殊能力なんて、誰一人持っていない!
地面が血まみれなのは、数多くの小説キャラが様々なトラップにやられたためだろう。
――ズウーン――。
大きな地響きを立てて歩く超巨大な怪物……。顔は雲の上まで突き抜けている。それと戦っているのは、大きな白い翼を持つ白銀の天使――。
レベルが違い過ぎる――!
足がガクガクと震えた……。
こんなやつらと戦って、勝てるはずがない!
「あきらめたらそこで負けよ! 「オイナリサン!」」
俺の肩を掴んで、なだれ落ちそうになった俺を必死で支えてくれたのは、「うっふんクス森ピクピク」だった。
「あと一分よ! あと一分だけ持ちこたえれば、締め切りの時間になるわ!」
「だが、あんな化け物に踏まれたら一たまりもない! 逃げなくては」
「どうやって逃げるというのよ……」
声が聞き取れないくらい小さかった。
「……トリモチの罠に、かかっているのに……。私達」
足元をみると、接着剤のような物がベットリと足にくっ付き、身動きが取れなかった。二人とも。
その時、目の前に突然、見覚えのある暗黒魔法使いが姿を現した――。
「また会ったな。お前たち二人が今日の最後の獲物だな」
締め切りギリギリを狙ってくる底辺小説キャラを掃討することに酔いしれている! 両手に黒い光を集めるが、その大きさが前回出会った時の比ではない――。
自分も成長しているが、それ以上に敵も成長している~――!
「もう、ダメだ、あと数秒なのに――!」
「あきらめないで、私が盾になるわ」
吟遊詩人の「オイナリサン」の前に、「うっふんクス森ピクピク」が仁王立ちになる――。
「我慢して耐える!」
その声と同時に「うっふんクス森ピクピク」の体が少し青色に光った。格闘家の特殊能力、「我慢して耐える」は、一度だけ敵の攻撃によるダメージを半減させる効果があるのだが――!
それ、魔法にも効き目あるの~!
「キャアー」
片方の拳から放たれた黒い光を浴びると、「うっふんクス森ピクピク」は瞬時に闘技場から姿を消した――!
「お、おのれ! 一度ならず二度までも!」
と叫んだ目の前に、間髪を置かずに黒い光が飛んできて――俺の体をこの世から消し去ろうとする――!
「うわー」
絶体絶命というか、もう、身体が半透明になり始めている――!
ピー……。
――?
どこからか音が聞こえたかと思うと、まとわりついた黒い光は消え去り。暗黒魔法使いは攻撃の手を降ろした。
「ち、締め切りの時間か。命拾いしたな」
それだけ言い残すと、黒いマントを翻してゆっくり歩き去っていった。
……助かったのか?
もしかして俺は……、一次選考を通過したのか?
多くの犠牲を払った。
俺以外のキャラは全員、消え去ってしまった。本当に、これでよかったのか……? 目から一筋の涙が流れたとき、
「えー、それでは一次選考通過者を発表いたします」
闘技場の遠くから声が聞こえたかと思うと――、
地面から何体もの小説キャラが蘇るように現れる――!
その中には俺の小説キャラもいて、このバトルに参加した全てのキャラが蘇ったのだ――!
これはいったい、どういうことなんだ?
「ユーザー名、〇〇さん。作品名〇〇」
パチパチと闘技場内から小さな拍手が沸起こり、遠くの壇上へ上がるキャラが見える。
「続きまして、ユーザー名、〇〇さん。作品名〇〇……」
ああ、……そういうことか。
結局、「小キャラバトル説」は、ただのゲームだったのか。戦いに勝とうが負けようが、このバトルでの勝敗と小説大賞とは、なんの関係も無かったのだ。だから応募した全ての小説キャラが蘇り、PVや強さに関係なく一次選考を通過する……。
その場に座り込んでしまった――。
いったい俺は……なにをやっていたのだろうか。ゲームで小説の一次選考を通過しようだなんて……。
ゲームで生き残ったからといって小説大賞の一次選考を通過できるのなら、誰も苦労しない。
土の上に涙がポタポタと落ちた……。
「続きまして、ユーザー名、矮鶏ぽろ様!」
――!
俺の名が呼ばれた――?
「作品名は――」
慌てて立ち上がると、トリモチにくっ付いたズボンが脱げてしまい、慌ててズボンを引き上げる――!
「作品名は、「小キャラバトル説」です。おめでとうございます」
――ええ? そっち?
見ると、申し訳なさそうに、俺の小説キャラ、「小キャラバトル説」が頭を掻きながら壇上へと向かって走り出す。
――「オイナリサン」じゃないの?
――「うっふんクス森ピクピク」じゃ、ないの?
隣を見ると、蘇った「うっふんクス森ピクピク」が、ニコニコと笑顔を見せた。
「いいじゃない。どの小説が通過しても、書いたのは同じなんだから」
「え? でも、あの小説、暇つぶしに書いたんだぞ? 見直しだってしていないのに……」
「一次選考通過された皆さま、おめでとうございます! それではまた、次のバトルでお会いしましょう。さようなら~!」
「え? ええ? 二次選考はバトルしないの?」
空間が暗くなり、フェイドアウトしていく。
ピー……。
ああ、そうか。忘れていた。
これ、クソゲーだった……。
あれから一月後、『なるうコン小説大賞』一次選考通過の結果発表があった。
画面には一次選考通過者リストが表示されている。
嘘か本当か、俺の名前と、小説名「小キャラバトル説」がそこのあったのだ!
――やった! なんだよこれ、マジで嬉しいじゃないか! こんなに嬉しいのは、生まれて初めての経験だ!
――無料小説投稿サイトで、これほどまでの達成感を味わえるなんて!
だが、喜んでばかりいられない。次は二次選考が待ち受けている――! あの強敵たちと戦い、勝たなければ『書籍化』の栄冠を手にすることはできない!
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