集え? 『小説大賞バトル』
俺のパーティーの主力は、体力30万越えの、「ボディーガードは次元戦艦オイナリサン」……詩人。と、体力10万越えの格闘家、「うっふんクス森ピクピク!」他十体!
フィールド画面に小さなドット絵のキャラが現れ、そのキャラの上に小説のタイトル名と体力ゲージが表示されている。
ピコピコとアンティークな移動音を立てて歩き始める。
敵キャラも……他のユーザーが書いた小説キャラなのだろう。頭の上に長いタイトル名と体力ゲージが書かれている。
動かすキャラをマウスで選択し、そっとその敵キャラへと近づけると、
ピ、ピロロ。ピ、ピロロ……。
接触音のあと、俺の小説キャラ、「転生したら部品取り用のクローンだったので、逃げるわ」が画面から消えた。
「ああ! 「転生クローン逃げる」がやられた!」
仕方ないのだ。まだ、投稿し始めで評価ポイントも少なく、感想、レビューが一つもない。文字数も少ない。
しかし、それが引き金となってしまい、敵キャラに目を付けられてしまった――!
俺のキャラが――、底辺作家キャラだということが――バレてしまった~!
必死にマウスでキャラをクリックして逃がそうとするが、敵の動きが速い! 素早さが高いのだろう。
次々と俺の小説キャラが倒され消えていく――。
ピ、ピロロ。ピ、ピロロ。
陳腐な効果音で次々と倒され消えゆく小説キャラ達。
このバトルには、ひょっとすると「特殊攻撃」や「魔法」なんて、まったく関係ないのではないかと思わざるをえない――。
ピ、ピロロ。ピ、ピロロ。全部同じ音だ……。
――だが!
それはプレイする側の想像力で、壮大なスケールへと膨らませる――。
――闘技場の赤茶色い土の上を全力疾走で逃げる小説キャラ――!
後ろから追い掛けてくるのは、真っ黒なローブをまとった不気味な暗黒魔法使い!
足が地についていない、フワフワと浮かびながら水平飛行で追い掛けてくるその姿ば、まさに死神を彷彿させる!
「フハハハハ、ここは貴様らのような弱者が来るところではないわ!」
両手が不気味に黒く光を吸収したかと思うと、地面を大きく震わせ、走ることすらままならない!
「消え去るがいい! エクスペクト・パトロール!」
聞いたことがない魔法をかけられ、体力の少ない小説キャラは一瞬で闘技場から消え去ってしまった。
「きゃあ~!」
「ああ! しっかりしろ、「うっふんクス森ピクピク!」」
咄嗟に地面を蹴り、反転するが、もう「うっふんクス森ピクピク」の体は透き通って消えていこうとしていた。
「逃げて……「オイナリサン」あなたは、生き残って……一次選考を通過して……」
「消えるんじゃない! 今すぐ俺の……癒しの歌で回復するから、消えないでくれ!」
背中に背負っていたアコースティックギターを体の前で構え、癒しの歌を歌う……。
「ガッツだぞ! パワフルだせよ~。ガッツだぞ! 苦くて辛いぞ~」
癒しの歌は間に合わず、目の前から女格闘家、「うっふんクス森ピクピク」は蛍のような光となり消えてしまった……。
「ううう、くそー!」
――立ち上がって敵を睨みつける!
「血も涙もない暗黒魔法使いめ! 貴様の血は何色だ! か弱い底辺小説を虐めやがって――」
それでも、人間か――!
いや、もとい。
それでも、小説か――!
「泣くことはない。貴様も直ぐに後を追わせてやる」
またもや両手が黒く光を吸収している――。
もう一度アレを喰らったらヤバい。もう体力が半分を切っているのだ。
咄嗟にアコースティックギターを構える――。暗黒魔法の威力は強いが、詠唱時間がその分必要だ。ならば、その隙に攻撃するしかない!
「くらえ! 攻撃の歌! ええっと?」
――即興で歌が思い浮かばない!
そもそも、歌なんかでどうやって敵の体力を削ればいいというのだ! がむしゃらにギターを弾くが、敵は涼しい顔をしている。そして、
「貴様のそのギター、チューニングが合ってないぞ」
「ええ!」
慌てて一弦ずつ引いてみるのだが、焦ってしまい、どの音がズレているのかすら分からない!
敵の方が、圧倒的に強かった……。色んな意味で。
暗黒魔法使いに、まさかの近接攻撃でやられ、俺のパーティーは一次選考通過せずに全滅してしまった……。
ピロリロリ……。
「くそう、相手が悪かった!」
マウスをクリックすると、「小キャラバトル説」のタイトル画面に戻っていた。
小説投稿サイト『小説家になるう』で、先程パーティーを全滅させられた小説キャラの名前を検索してみると……。敵わないわけだ。ランキングに入っているハイファンタジー作品だった。
PVも評価ポイントも桁違い甚だしい。こちらの攻撃など、ひょっとすると体力を1ポイントも削れないのではないだろうか。
――っつーか、なんて酷いゲームバランスなんだ!
――こんなもん、勝ち目ねーだろーが!
「ああ、アホらしい! やっぱりクソゲーなんかに手を出したのがいけなかった」
声を張り上げてダウンロードした「小キャラバトル説」をマウスでドラッグし、パソコンのゴミ箱へと移動する。
ああ、スッキリした。ざまあ見ろだ! ハハハ……。
はあ~。
ため息が出てしまう……。
――底辺作家の底辺小説は、キャラになっても底辺キャラか……。悔しさと、惨めさで嫌になってしまう。
小説は底辺でも……、せめてゲームくらいは楽しみたいぜ……。
ゴミ箱へ移動した「小キャラバトル説」を、そっとディスクトップへと戻した。
あきらめたらそこで負けです。
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