その34 望野宮神社・本殿奥の部屋、猫魂国宮殿・執務室
ササミ缶にがっつくシロネが、ぺろりと口周りを拭った。
「ま。一件落着だな」
「そうであった」シンケイがシロネに包みを差し出す。「まだこれを返していなかったな」
「ん?」
「骨ガムです」ブタエが言う。「元々あちこち割れていたようですね。完全修復は難しいそうです」
「そうか…」ヒビだらけの骨ガムを眺めるシロネ。
「大国主さまのお見立てでは、以前に激しく噛まれたのではとのことでした」
「以前…」
シロネの脳裏に、ふと、ある光景が浮かんだ。
赤ん坊のシロネが骨ガムに噛みつきまくり暴れている。
「わーっ!」焦るシロネ。
「いかがいたした」
「な、何でもない」
「大丈夫ですか。顔が青いようですが」ブタエがシロネをのぞき込む。
「だ、大丈夫」
コブタエも、やはり何かを思い出したようだった。
「そういえばシロネ。最初に犬に追われていたのはなぜですか。あの時の誘拐は狂言だし、骨ガムを追われていたわけじゃないですよね」
「ああ、あれは犬狛国とは関係ない」
「ではどこの追手なのです?」
「ただの犬。腹が減って、民家の庭にあったドッグフードに手を出そうとしたら、怒って追って来た」
「はあ?」
「人間に変身して逃げたんだけどさ、骨ガムの匂いでわかったらしくて」
「じゃあ悪いのはシロネじゃないですか。私は泥棒猫を助けたんですか!」
「はあ? ポイント欲しさに助けたくせに」
ギャーギャーと言い合うコブタエとシロネ。
やれやれと言った顔でブタエが尋ねる。
「ところでシロネ、旅行にでも行くのですか?」
シロネの横には大きなスーツケースがある。
「今日からここで世話になる」
「はあ?」シロネを睨むコブタエ。
「国にいたら、今度さらわれるのは間違いなく俺だ…」
シロネは、目の前に浮かんだ、羽二重餅を片手に微笑むマイヌの姿を両手でかき消した。
肩をすくめるコブタエ。「では私のペットということで」
「何でだよ!」
その頃、猫魂国宮殿の執務室では、シノブが一通の手紙をクロネに差し出していた。
「シロネさまの部屋にこれが…」
手紙を読むクロネ。
「クロネへ。俺は国を出る。スパの不祥事の責任を取って、王位継承権はおまえに譲る。シノブは嫁にしろ。シロネ」
「兄さん…」
クロネから渡された手紙を読んだシノブの頬が赤らむ。
「あ、あの…シロネさまは大丈夫なんでしょうか」
微笑むクロネ。
「大丈夫だ。兄さんにはピンチの時に助けてくれる友がいる」
飽きもせず、ギャーギャーと言い合っているコブタエとシロネ。
「それに、おまえがスパを倒したあれ、ビームじゃなくてボールだから」
「ビームの方が語呂がいいんです!」
コブタエとシロネを見つめるブタエとシンケイ。
「何だか賑やかになりそうですわね」
「まあ、それもよい」
逃げるシロネと追いかけるコブタエを見ながら、シンケイとブタエは微笑みあった。
(終)




