その2 公園
ベンチに座っているのは、羽二重餅の妖精、コブタエだ。あんこ色のおかっぱ頭に、金平糖が散りばめられた白いベレー帽、白いロングローブ姿の彼女は、熱心な様子で『羽二重餅まるわかり事典』を読んで暗唱している。
「羽二重餅は羽二重織が盛んだった福井県で生まれた」
その目の前を猛スピードでシロネが駆け抜けて行く。森にいた時の猫の姿とは違って人間体だ。銀髪に白いロングコートをまとっている。
そこに、シロネを追いかけてくる大型犬。こちらは本物の犬だ。
慌てふためき逃げ惑うシロネを目撃し、コブタエはつぶやいた。
「困っている人を発見です!」
『羽二重餅まるわかり事典』を頭に乗せて走り出したコブタエは、大型犬をあっという間に追い越した。そして、シロネの横に並ぶと彼に微笑む。
「もうちょっとスピード上げましょう。追いつかれちゃいます」
「……誰?」怪訝そうに答えるシロネ。
「ふふ。私ですか?」不遜な笑みを浮かべるコブタエ。「…私はピンチをピンチに変える女」
「はい?」
さらに不遜な笑みを浮かべるコブタエ。
「羽二重餅の妖精でございます」
「えーと、突っ込みどころ多すぎて対応しきれねえ。てか、今それどころじゃ」
さらにスピードを上げるシロネ。
そのスピードにぴったりと寄り添いながら、コブタエがシロネを引っ張る。
「そこの出口から道路に出て、反対側に渡りましょう!」
バランスを崩すシロネ。
「うわっ!」
道路に出た瞬間に転びそうになったシロネが、走って来た軽トラックに轢かれそうになる。
「うわあぁ!!」
その瞬間、コブタエが、ベレー帽から金平糖を一粒取り、右手で上に掲げて叫ぶ。
「ピンチをピンチに!」
シロネを突き飛ばし、コブタエは高く飛び上がった。