その11 望野宮神社・本殿奥の部屋
人間体に戻ったコブタエが、大鏡の前でおしろいをはたいている。
シロネも猫の姿に戻っている。
「何してんだよ、コブタエ」シロネが不思議そうにのぞき込む。
「打ち粉の片栗粉を打ち直しています。さっき、だいぶ崩れてしまって」
「粉振っても顔は直らねーぞ」
シロネの顔の横の壁をグーで殴るコブタエ。壁にヒビが入る。
「ひいっ」
「打ち粉は羽二重餅にとって仕上げの生命線。試験でも実技があるのです」
シロネが震えあがっているところに、ブタエが風呂敷包みを運んで来た。
「ササミ缶です。コブタエが無茶をしたようですので十個用意しました」
外から匂いを嗅ぐシロネ。
「今回は、いいババアじゃねえか」
コブタエがウルウルしながら頭を下げる。
「ブタエ姉さま、ありがとうございます。私のためにこんな…」
無表情に言うブタエ。「代金はお小遣いから天引きです」
「ええっ!」
コブタエの前で正座し、コブタエにも座るようにと目で指示するブタエ。
慌てて正座するコブタエ。
「いいですか、コブタエ。おまえはシロネを危険な目にあわせただけですよ」
「はい……」うつむくコブタエ。
「ポイントを1点マイナスします」
「そんな……」
涙目のコブタエを気の毒に思ったのか、シロネが言う。
「別にそこまでしなくていいよ。犬狛の城に入ってわかったこともあったしな」
「弟のクロネはいなかったのですね」確認するように言うブタエ。
「ああ。それに、ダイヤモンドツナも、何か普通っていうか…」
「そして王女は羽二重餅の虜になったのでございます!」頬を紅潮して叫ぶコブタエ。
「マイヌの奴、のんびり餅食うなんて、余裕かましてやがったぜ」憎々し気なシロネ。
うなづくブタエ。
「シロネに毒を盛られてもおかしくない状況でしょうにね」
「まあ、ともかく、ここから出て部下に連絡を取るから」シロネは風呂敷を背負った。「お、重い…!」
やれやれと言わんばかりに微笑むブタエ。
「ササミ缶ならキープしておきます。お腹が空いたら、ここへおいでなさい」
風呂敷を下ろして苦々し気に言うシロネ。「勝手に食うなよな」
「ご安心を」
「…じゃあ、頼むわ」
大鏡から素早く出て行くシロネ。その後を慌ててコブタエが追いかける。
「待って、シロネ!」コブタエも続いて大鏡から出ていく。
ブタエが慌てる。
「コブタエ。あなたは謹慎を…!」
閉じる大鏡を眺めながら、ため息をつくブタエ。
そこに、シンケイがやって来る。
「もう少し様子を見るとしよう」
「シンケイさま……」
大鏡に映るシロネとコブタエの様子。シロネはコブタエに後ろから抱きかかえられ、大暴れしている。
くすりと笑うブタエ。シンケイも微笑む。
「失敗しながらわかることもある」
そう言ってシンケイは大きな水晶玉を撫でた。




