第二想・想曲/壱~葬花~
花が手向けられていた。信号の設けられた十字路の、電柱の下。死者への弔いの花が、ぽつんと、そこに置かれていた。
花びらを伝って雫の落ちる様は、まるで花が泣いているかのようだ。
深緑の双眸が、死者へ手向けられた花束を映し出す。花束を見つめたまま、微動だにしない。
そんな彼の横を、傘を差しながら制服を着た二人の少女が通りかかった。運悪く赤信号に引っかかった彼女達は、横断歩道の前で立ち止まる。
控え目に笑い合う二人は、傍らに立つ彼に気付いていないようだった。まるで、彼の姿が見えていないかのように。
ふと笑いを止め視線を動かした少女の瞳は、そこに立つ彼を通り抜けて電柱の下に置かれた花束に向けられる。
顔を曇らせた相手に習って視線を向けたもう一人の少女が、納得したように一つ頷いた。
「三日位前…かな。飲酒運転の車が歩道に突っ込んできて、一人轢かれたんだ。運ばれた時はまだ息はあったみたいなんだけど…この様子だと、亡くなったんだね」
「へぇ…。随分と詳しいのね」
「だって、あたしその時この近くにいたんだもん」
「…ひょっとして、ニュースで言っていた事故の事かしら?確か…轢かれたのって、高校一年生に男子生徒だったわよね?」
「う~ん…そこまでは。あたしが駆けつけた時にはもう救急車は出発してたし。近くにいた人達が話していたのを聞いただけだからさ」
「そう…。でも…突然命を奪われるのって、どんな気持ちなのかしらね」
「わかんない。だって、あたし死んでないし」
「…それもそうね。あ…信号変ったわ。行きましょう」
信号が青になり、二人は横断歩道を渡っていく。
遠ざかっていく背中を、しばらくの間、深緑の双眸が見つめていた。しかしその背が視界から消えると、再び彼は手向けられた花束へと視線を落とす。
「…無責任だって、思っている?」
少し高めの声が、整った唇から紡ぎ出される。