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第三想・終曲/参〜願想〜

「―――願い」

 ラキが主に毛布を掛けようとしたまさにその時、室内の静寂を破る平淡な声音が響いた。

 驚いて動きを止めたラキの見つめる先で、ゆっくりと瞼が上げられる。

「確証されていない未来だからこそ、そうして言葉を重ねる事で確実な明日を掴もうとする」

 静かな深緑の双眸に見据えられ、ラウは紡がれたその言葉が自分の問いかけへの返答だという事に気が付いた。

「物語の中の鳥を見つけてきてあげる――それは、自分が約束を守るまで生きていてくれという、無意識下の願いの具現だ」

 毛布を持ったままのラキを片手で下がらせ、机の上に置かれた、些か熱の失せた紅茶に主は口を付ける。

「約束が、願いの具現ですか?」

 噛み締めるように確認の問いを発するラウに醒めた一瞥をくれて、主は適当に放っておいた本を手に取りページを捲った。

「願いとは常に儚いもの。その具現である約束もまた然り」

 本に落とされた視線は既に従者に向けられる事はなく、その瞳は無感動に文字を追っていく。それでもその唇から紡がれる声音は、初冬を迎えた世界に朗々と響いた。

「儚いものに縋らなければ生きていけない――あまりにも不安定なその生き方が、実に人間らしい」

 再び大好きな紅茶を堪能し、その唇に刻まれた笑みは何処か皮肉げだった。

 いつもの主の様子に、ラウはそっと溜め息をつく。主の背後で手持ち無沙汰な様子で毛布を手に立っていたラキも、微かな失笑を洩らして雨に濡れたままの兄を促した。

 主愛用の机がこれ以上水溜りを増やせば、主の鋭い視線がその原因である兄に突き刺さるかもしれない。

「兄さん。お風呂も沸いていますので、さっぱりしますよ」

 再び肩に乗った兄にそう言って微笑みながら、自分の言葉に固まった相手に気付かない振りをしてラキは部屋を出て行く。

 音を立てて境界が閉じられれば、部屋には静寂が訪れる。時折ページを捲る音とカップとソーサーが出会う甲高い音以外に、静かなる時間を乱すものはなかった。

 泣き止んだ天がその悲しみを吹き飛ばすかのように突如として吹き荒れた突風に、文字を追っていた彼の深緑の双眸が上げられる。動かされた視線の先には、綺麗な夕焼けが広がっていた。

 微かに、細められる森の瞳。

「――人間は何かに縋ってまで生きようとする。だからこそ、美しい」

 主の呟きを、二人は知らない。






死者の皆さん



生者に言伝はありませんか?



菖蒲の咲き乱れる道の先



古城の扉を抜けた部屋



そこで待つのは



ちょっと変わった住人です



ご安心を



怪しい者ではありません



天の啼く雨の日に



責任を以ってお伝えしましょう



貴方の死様は綺麗でしたか?






終劇

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