第三想・終曲/弐〜儚夢〜
弟の出て行った扉が閉じられれば、耳に痛い程の静寂に包まれる室内。短い足で机の上を主の傍まで歩いたラウは、静かな寝顔を見上げた。
「…主」
呼びかけに、やはり彼は応えない。
それでも、ラウは構わなかった。
「主。何故、人は約束をするのでしょう。それを、守れる確証など何処にもないのに」
これでまた笑顔が見れると、嬉しそうに笑った幼子。しかし、その先で待っていたのは、酷薄な現実だった。
ベッドに横たわる少女を前にして、泣かなかった男の子。しかしそれは悲しくなかったからではなく、その死を受け入れられなかっただけだった。
泣き続ける雨に導かれたこの部屋で、約束を守れなかったと、あの子は大声を上げて泣いた。
「未来の事など誰にも分からない。その生がいつ断たれるのかすら、誰にも予測できないというのに」
にも係わらず、人は当たり前のように未来の約束をする。それが果たされる事を、疑いもせずに信じている。
どんなに儚くて、脆いものなのかも、彼等は知らない。
背後で扉の開く音がする。振り返れば、毛布を手に持って部屋に入ってくる弟の姿が視界に入った。
「このままでは、本当に風邪を召されてしまう」
ラキの言葉に、ラウも苦笑を洩らす。
結局主は、泣き止むまで男の子を引き剥がそうとはしなかった。慰めの言葉を掛ける事も、抱き締める事さえしなかったが、それでも慣れない事をして疲れたのだろうか。