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第三想・想曲/拾〜言伝〜
声を上げて泣き続ける男の子の背後でそっと扉が開く。タオルを片手に姿を現したラキを深緑の双眸が捉え、今まで黙って男の子の言葉を聴いていた少年が動いた。立ち上がり、男の子の前で立ち止まった彼がラキの手からタオルを奪う。無造作に落とされた白色のタオルが、男の子の泣き顔を隠した。
そっと、タオルの上から男の子の頭に手が置かれる。驚いたように見上げてきた涙で濡れた瞳に、森の色が映った。
「――言伝だ」
言葉の意味が解らずに首を傾げる男の子に、彼は飽く迄も淡々とした口調で死者の想いを紡いだ。
「“綺麗だった。約束を守ってくれて、ありがとう”」
それが誰から贈られた想いであるのかを理解した男の子の黒の双眸が、これ以上ない程に見開かれる。しかしそれも数秒で、顔を歪めた彼は少年へと抱きついた。
ラキがその紫の瞳を瞠る先で、しかし少年は、自分にしがみ付いて泣き続ける男の子を引き剥がそうとはしなかった。
残された死者の想い。それは、誰の言葉よりもきっと、彼を救ったに違いない。
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