第三想・想曲/玖〜慟哭〜
背後で扉が閉まる音がしても、中途半端な所で立ち止まった男の子は俯いたままだった。そんな相手を、皮椅子に腰掛けた少年の深緑の双眸が無感動に見据える。
時計が刻む音が、厭に大きく室内に反響する。どれ程、二人の間に沈黙が流れていただろうか。
「…守れなかった」
やがて、ぽつりと、男の子の唇から言葉が漏れる。
細められる、森の瞳。
「見せてあげるって、言ったのに…。約束だよって、指きりしたのに…」
ここまで堪えてきた涙が、自らのうちにわだかまる思いを言葉にした瞬間、堰を切ったように溢れ出した。
「僕…は…約束を…守、れなか…ったッ」
拭っても拭っても溢れ出てくる涙は、世界を包む天の雨と同様、止む気配を見せなくて。しゃくり上げて泣き続ける男の子を、それでも主はただ黙って見据えていた。
「楽しみだって…そう言…って、笑った…のに…ッ」
約束ね、と。小さな小指を絡ませて、そう言って笑ったあの子の笑顔は、まるで太陽のようで。
笑う姿が大好きだった。その笑顔が大好きだった。
もっと、笑って欲しかったから。だから、絵本で見たとおりの綺麗な翼を持った鳥を見つけた時、これでまた笑ってくれると、喜んだのに。
「未来ちゃん…は…天国に逝ってしま…ッ」
その先で待っていたのは、残酷な現実だった。病室に入ると、まるで眠っているかのような穏やかな顔で、彼女はそこにいた。
「見せて…あげられなかった…」
約束を、したのに。