第三想・想曲/捌〜理由〜
首を傾げるも、いずれその答えは示されるだろうと、いくら待っても答えが返ってくることはない事を知っているラキは自己完結をして開けたままだった窓を閉じた。
「主。髪を乾かしませんと。そのままだと、風邪を引かれますよ」
雫を落とす切っ先を認め、ラキは脇に挟んできたタオルを広げて問答無用で主の黒髪を拭き始める。
「風邪、ね」
ラキの予想通り鼻で笑って軽くあしらった主であったが、彼の行為を咎めるようなことはしなかった。従者が成すがまま、独り楽しいティータイムを堪能する。
丁寧に主の黒髪を拭いたラキは、水分を含んで重くなったタオルを片手に一旦部屋を出て行った。しばらくして戻ってきた彼の手にはドライヤーと櫛が握られていて、少々煩わしい音を立てて主の髪を乾かしていく。
「少しの間ですので、我慢してください」
五月蝿そうに一瞥をくれてきた相手に、ラキはピシャリと言い放つ。その深緑の双眸が不承不承といった体ながらも戻されれば、程なくして騒音は掻き消えた。細い黒髪に、丁寧に櫛を入れていく。
綺麗に髪を整え、ラキがコンセントを抜いたドライヤーを片付けていた時だった。不意に、主の視線が部屋の扉に固定される。
「・・・・・・・・?」
小首を傾げ、片付けの手を止めたラキも主の視線を追う。程なくして、部屋の扉は開かれた。
ゆっくりと内側に開かれていく扉。そこから姿を現したのは、まだ小学校低学年ぐらいの男の子だった。注がれる二対の色の違う双眸と目を合わせる事無く、俯き加減に部屋へと入ってきた彼の体がずぶ濡れであることに気付いたラキは、無言で部屋を出て行った。