第三想・想曲/参〜約束〜
必死の様子に、けれど少年の深緑の双眸は動かない。
耳の痛い沈黙がその場を支配する。無感動な深緑の瞳と涙に濡れた黒の双眸とが絡み合った。
少年の肩にとまっているラウが、動かない状況に困惑したように翼を羽ばたかせる。それによって生じた微風に少年の漆黒の髪が踊った。
「…約束したんだ」
どんなに少年が冷たい瞳をしていても、男の子は視線を外すことはなかった。深緑の双眸を見上げながら、言葉を紡ぐ。
「昔読んだお話の中に出てきた鳥を見つけてきてあげるって。あの子に、約束したから」
男の子の視線が、少年の肩にとまっているラウに向けられる。その見事な緋色の翼は、本来ならば自然界に存在しない色だ。
「やっと…やっと見つけたんだ。その鳥を見せれば、あの子は絶対に元気になる。病気なんか、すぐに治るに決まってる」
だから、一度でいいからその鳥を貸してと、再び少年を見上げた男の子は懇願した。
「・・・・・・・・・・」
再び訪れる、静寂。雨音だけが支配する世界の中で、そこだけ時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
無言の対峙は、少年の深緑の双眸が動かされた事によって終わりを告げる。そのまま何も言わずに踵を返して歩き出した彼に、ラウはもう一度抗議の意味を込めて翼を羽ばたかせた。
向けられる深緑。不機嫌そうなのはそのまま、彼は無造作に腕を払った。反射的に緋色が雨空を舞えば、歩みを緩める事無く主は去っていってしまう。