第三想・想曲/壱~冷然~
突然降り出した時雨に、不愉快そうに眉を寄せる。いつもならその滑稽さに嘲笑が浮ぶだけだが、せっかくの楽しい時間を邪魔された今日は腹立たしい事この上ない。
捜し物を求めて視線を彷徨わせ、少し離れた所にその姿を認める。
「ラウ」
底冷えするような平淡な声音が、雨音を縫って周囲に響き渡る。
ゆっくりと近付いていけば、見事な緋色の翼を持った鳥を両手で捕まえていた小さな男の子が、敵意にも似た表情で睨み付けてきた。
しかしそんな態度に臆するわけもなく、彼は男の子の前に悠然と立ちはだかった。
「な…何だよ、お前ッ!」
少年の精一杯の攻撃を意に介す様子も見せずに受け流した彼は、その深緑の双眸を少年の手の中でバタバタと暴れている鳥へと動かした。
「――ラウ」
静かな声音がその名を呼べば、全ての時間が停止する。
動きを止めた少年の手から緋色の鳥を解放してやれば、やっと自由になれた事を喜ぶように二度三度翼を羽ばたかせたラウは、彼の細い肩に器用に収まった。
用事は済んだとばかりにくるりと踵を返した彼の服を、後ろから小さな手が掴んだ。
仕方なく足を止めた彼は、不愉快そうに背後にその深緑の双眸を向ける。