第二想・想曲/弐~視認~
十字路には彼以外に人影はなく、その問いかけに応える者などいるはずもない。しかし、数秒の間を置いて、応える声があった。
『…どうかな。突然の事で…正直言うと俺もよくわかってないからさ』
すっと、彼の視線が背後へと移される。
いつの間にか、そこには制服姿の少年が立っていた。しかしその姿は半分透けていて、向こう側の景色がぼやけて見える。
明らかに、その少年は人間ではなかった。
「でも、自分が死んだ事は理解しているんだ」
彼の問いかけに、少年は困ったように眉を寄せて頬を掻く。
『う~ん…まあ、ね。俺の姿、誰にも見えてないみたいだし。俺に話しかけてきたの、お前が初めて』
だろうねと、彼は皮肉気に笑った。
『お前、霊能力者とか何かか?俺の…』
「キスイ――『お前』じゃなくて『キスイ』だよ」
二度もお前呼ばわれされて些か機嫌を損ねたのか、眉間に皴を寄せた彼は――キスイは相手の言葉を遮った。
少年は特に気を悪くした風もなく、『じゃあキスイ』と改めて口を開いた。
『キスイは、俺を成仏させにでも来たのか?』
少年の問いかけに、キスイは数秒考え込んだ。
「…まあ、趣旨的には間違ってない表現だけど…」
『だけど、何だよ?』
はっきりしないキスイの態度に、気が短いのか少年の声に険が宿る。
そんな彼をその深緑の双眸でひたと見据え、キスイは凪いだ声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「――伝えたい想いがあるでしょう?澤田朔さん」
唐突に名前を呼ばれ、朔は驚いたようにその細長の瞳を見開いた。
降り続ける雨は、止まない。
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