序曲
灰色の世界。雨音だけが世界を埋め尽くす。
窓の桟に頬杖をつき、つまらなそうに外を眺めていたその口元が、その姿を認めて微かな笑みを刻んだ。
「…あぁ、今日もまた天が啼いている」
「今日も、ですか?」
声のした方に一瞥をくれて、その笑みを深いものにする。
「今日のは特別。誰か死んだのかな」
「・・・・・・・・」
「この雨は天が流した涙。神の気まぐれもここまでくると滑稽だ」
くすくすと笑う主を見上げ、鋭い双眸を半眼にして呆れの溜め息をつく。
「神への冒涜になりますぞ?」
「真実ならば、それが全てだ」
諌めるように重ねた言葉に澄んだ声音でそう返されれば、それ以上何も言えなくなる。
「…なんと正直な」
それでも何とか搾り出せたのは、皮肉にすらならない陳腐な台詞。
「“自分に正直”。僕の座右の銘なんだ」
(いけしゃあしゃあと)
視線を外し、心の中で毒づく。
何故こんなひねくれた主に自分は仕えてしまったのだろう。後悔してもしきれない。
「――ラウ。仕事だ。“輝”が一つ迷い出た。連れて来い」
名を呼ばれ、ラウは再び視線を主に向ける。彼は頬杖をついたまま窓の外を感情の失せた顔で眺めている。ラウには、彼が何を考えているのかわからなかった。いつもの事だ。
ばさりと見事な緋色の翼を広げ、ラウは豪雨の中に身を投じる。翼を叩く大粒の雨に顔を顰めながら、目的の場所へと飛び始めた。
ΨΨΨΨ
初めまして。椎名疾風と申します。
ここまでお読みくださり、有難うございます。
お気に召しましたら、続きの方もお読み頂けるととても嬉しいです。