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君が成し遂げたこと


 カラスが賢いというのは本当だろうか?

 遊歩道のベンチで静かに読書している俺の頭上から枝を揺らして葉っぱを落としてくる。もしカラスが賢いのなら、これは俺へのイヤがらせか?開いたページに虫喰いの葉っぱだの、触ったらパリパリに砕けてしまう葉っぱだの、まったく、イヤがらせとしてはピカイチなものを落としやがる。

 石でも投げて追い払うか。足下に石はないかと見回してみると、ベンチの下にドングリがあった。

 上半身を折り曲げてベンチの下へ手を伸ばすと、視界の左隅で何かが動く。それはよく見ると茶色い子猫で、小さく縮こまっていた。ふるえている。寒いのか?

 予定を変更して子猫に向かってそっと手を伸ばす。

 俺の腕は短かった。ふわふわの毛玉にかすりもしない。

 体勢を立て直そうと、一度体を起こす。ベンチの背もたれにカラスが止まっていた。


 「うおっ」


 思わず立ち上がる。

 いつの間にか木の上のカラスがいない。音もなく降りてきていたらしい。

 直接対決に持ち込む気か?カラスの大きなくちばしを警戒し、小さな文庫本を楯とした。だが心許ない。

 潔く負けを認めようかと思った時、ベンチの下から子猫が這い出てきた。

 ふるえながらミャアミャア鳴いてはキョロキョロしている。何か探しているのかもしれない。

 見守っていると、茂みの向こうで別の猫が鳴いた。低く短く鳴いたのは母猫だろう。ふるえていた子猫がぴょんと駆け出した。

 そこへ2人の女子高校生が現れた。


 「かわいい!子猫だぁ~」

 「ちっちゃぁ~い!」


 子猫はビクッと驚いて転んでしまった。


 「驚かしちゃったね、ごめんね~」


 子猫を助け起こそうと近づく彼女たちの前を、突如、カラスが横切る。ベンチから向こう側の木に止まった。


 「びっくりしたぁ~、カラスじゃん」

 「危ないなぁ」

 「もしかして子猫狙ってるっぽくない?」


 彼女たちはカラスをにらみつける。

 カラスはそっぽ向いている。


 「今のうちにこの子猫、助けてあげようよ」

 「そうだね、カラスなんかいない安全な場所を探そう」

 「いっそウチらで飼う?」

 「いいね、それ!」


 名案を思いついた彼女たちは、その場から動けない子猫を抱きあげようと、再び近づく。

 カラスが目を据えた。黒々とした翼を広げる。


 「きゃっ!」


 カラスは彼女たちと子猫の間に、うまいこと舞い降りた。

 すると、子猫は全力を振り絞って走り出す。今度こそ茂みの中へ小さな体をもぐりこませた。


 「行っちゃった~。でも、よかった」

 「うん。カラスに襲われる前に逃げ切れてよかったよね」


 カラスは元の通り、俺の頭上の枝へ戻ってきた。カラスが子猫への興味を失ったようなので、彼女たちも安心して歩き出した。

 子猫は母猫のもとへたどりつけたらしい。存分に甘える声を聞かせてくれた。

 俺はカラスを見上げた。羽づくろいしているカラスが思ったより賢く見えてきた。

 カラスの下で読書を再開しても、もう何も落ちてこなかった。




おしまい


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