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作者: みぼし
掲載日:2017/02/11

僕は毎朝窓を開ける。

ひんやりとした空気を吸うと、僕の一日が始まる。


通学路を走る。

はじめに吸ったものとは違う空気が口の中に入り込む。

途中で風が吹き、僕は立ち止まって目を閉じた。

そして、僕は風になった。


中学校まであと少しの距離。

風となった僕は校門を抜けて校舎に入る。

自分の教室を目的地に三階まで流れてきた。

暗く温度の低い部屋を通ると、僕は両側の窓をカタカタと鳴らしてみた。

誰も応じない。

僕は少しさみしくなった。


僕の教室は廊下の一番奥。

今はもう授業中で、僕の席に誰かが座っているのが見えた。

僕の席は後ろのドアに一番近い。

ドアの隙間を抜けて中へ入る。

昨日と何も変わらない。

『井上 日向』

僕の名前だ。

何年か前に書いた書道の作品がまだ後ろに飾られている。

金賞を取って両親にケーキを買ってもらったのをよく覚えている。

しばらくと眺めてから僕は自分の席を見た。

誰だろう。

あんな奴いたっけ…。

よく見るとみんな知らない顔だ。

先生は…僕の担任だ。

白井先生。

50代後半の男の先生だ。

何だか白髪が増えたみたいだ。

先生…シワも増えているな。

体調大丈夫なのかな。

説明をしながら度々咳をする先生はとても苦しそうだった。


「先生…」


先生に向けて僕は話しかけた。


「い、井上?」


僕の声は先生に届いた。

誰も僕に気がつかなかったのに、先生は応じてくれた。

嬉しさがこみ上げて、僕はクルクルと小風を躍らせた。


「先生…には僕が…」


そう、語りかけた時。

1人の生徒が先生に問いかけた。


「井上とは誰のことですか?」


僕はその声の主を見た。

その声は、僕の席に座っていた。

顔を見れば見るほど初めて見る顔で、誰だか見当もつかなかった。


「…私の元教え子だ。」


先生はうつむきながら呟いた。

すると、また例の生徒が発言をした。


「井上さんがどうかしたのですか?」


先生はカッと目を見開いてしゃがんだ。

肩を震わせる先生に僕は言った。


「僕はここに居ますよ…。」


すると、震えは強くなり、床に頭をつけ、ごめんなさい、ごめんなさいと呟き始めた。


「先生…井上さんに何かあったのですか?」


「ーは?」


僕はここにいる。

ここにいるのに。

何で誰も気づいてくれないのだろうか。


「井上はいじめにあっていたんだ。俺は気づいていたのに…助けてあげることができなかった…。」


「自殺…ですか。」


自殺?

いや、僕はここにいる。

いじめ?

そんなの…知らない。

分からない。

覚えていない。

今日が何日なのかも分からない。

もう何回このフレーズを聞いたかも…。

僕は忘れていたんだ。


「いいや、井上は死んでいない。自殺未遂で今もベッドの中で…」


そうだ。

僕は何もかもを思い出した。

毎日続く言葉と身体への暴力。

ついに僕は耐えられなくなり飛び降りた。

まるで風のようにするりと。

生暖かい風を受けながら。

先生…。

僕は、あなたを恨んでいません。

苦しい思いをさせてごめんなさい。

もう、謝らないでください!


僕はしゃがみこんでいる先生をおおいかぶさるように、抱きしめた。


「…?!」


その瞬間僕は白い光に包み込まれた。

そして、気がつくとベットの中だった。


「朝が…来た。」


いつも通り窓を開けて、朝の冷んやりとした空気を吸う。

1日が始まった。


僕はいつ本当の窓を開けることができるのか。

これが夢だとさえ僕は気づかない。

いや、思い出せない。

忘れてしまう。


今も僕は病院のベッドの中で植物状態。

起きる気配は一向にしない。




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