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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

夏空と彼女のキス

作者: 黒の人
掲載日:2016/05/15

 ああ、なんて暑い日なんだろう。

 高く昇った太陽が私の体温を上げていく。

 全身から汗が吹き出していくようで、不快感が高まっていくのを感じていた。


「暑い! どうしてこんなに暑いの……!」

 涼しい風が吹くのを待ち望んでいても、そんなものがやってくるはずもなく、吹くのは生ぬるい風ばかり。

 アスファルトも熱を帯びていて、下からも、上からも焼かれているようだ。

 どうして、こうも暑いのか、私は不思議でたまらない。

 けれど、今はそんなことはどうでもよくて。

 今はただ、この暑さから逃れたかった。


「そうだ……さっちゃんの家に行こう」

 思いついたのは、友人の家に行くことだった。

 サツキという名前の彼女は私の唯一の友人だ。

 行き先を悩んだ時には、いつも彼女の元へと向かう。

 私が 彼女の元へと行くといつも、仕方ないなぁ。なんて顔をしながら私のことを迎え入れてくれる。

 私にとってとても大切で、とても優しい友人だ。

 だから、この日も優しく迎え入れてくれることだろうと思っていた。


「おーい。さっちゃーん?」

 家のチャイムを押しても、彼女の反応が無いので、外から声をかけてみた。

 けれど、私の声にも反応はなかった。

 外出しているのだろうか? それなら仕方ないけれど、帰るしかなくなってしまう。

 それは避けたいと思った私は、彼女の家のドアに手をかけた。

……そして、それは開いてしまった。

 鍵が、かかっていなかった。


「誰もいないのー?」

 声をかけても、返事はない。

 どうするべきか悩んでいたところで、奥の部屋からくぐもった声が聞こえてくる。

「んっ……ふぁっ……」

 その声を聞いた私は、一言、お邪魔します。と声をかけて家の中に入っていく。

 ユウキなんて名前の私だけれど、この時に勇気を出して家の中に侵入してしまったのは、良いのか、悪いのか。

 友人の家であろうと、結局は不法に侵入してしまっているわけだもの。

 けれど、入ってしまったものは仕方ない。そう思い、奥の部屋の扉に手をかける。


「ユウ……キ?」

「えっと……お邪魔、します」


 ベットの上に居た彼女も、流石に私が部屋に入った気配に気づいたらしい。

 この、あまりにも気まずい状況でなければ、いつもの調子で普段通りの私達に戻るのだけれど。

 彼女は、顔を真っ赤にしている。

「ごめん……少しだけ部屋から出てもらえる、かな?」

「……分かった」


 案外落ち着いているのか、それとも羞恥によって逆に冷静になったのか。

 とにかく、一度私を部屋の外へ出すという結論に至ったらしい。

 私は素直に部屋の外へ出て、先程までの彼女の様子を思い出していた。


「あれは……明らかに、だよねぇ」

 私だって、人間だ。一度見たものをすぐに忘れるのは難しいが、忘れることにしよう。

 そう心の中で決めたのだ。


「……もう、入ってもいいよ」

 声がかかったのは、そんな時だった。

 私の方がまだ心の準備が出来ていなかったが、それでも部屋へと足を踏み入れた。

「えっと……見た?」

「えっ……」


 あぁ! 折角私が忘れてしまおうと決心したばかりなのに!

 今度は、私がどうすればいいのか分からなくなってしまった。

 ここは、そうだ。素直に今思い浮かんだ言葉を発してしまおう。


「……見た」

「……そっか」


 間違えた? 間違えたよね、間違いなく間違えたよね。

 ここは、そんな風に答える場面ではなかった。

 あまりにもわかりやすく狼狽えている私を見て、彼女は私に近づいてくる。


「あれね、ユウキのこと考えてしていた。なんて私が言ったら、どう思う?」

「えっ……えっ?」

「……ばか、冗談だよ」

「……そっか、そうだよね」


 突然、彼女が爆弾発言をした。

 ああ、私ばかりが動揺している。

 今日の彼女はとても強気で、私は押されてばかりだ。

 私は、自分が抑えられなくなって、彼女に近づいて腕を取った。


「行こう! 外に!」

「えっ!?」


 もう、何がなんだか分からなくなって、彼女の腕をとって、私は家の外へと飛び出した。

 そして、彼女の手を引いて、走り回った。

 そうすると、いつの間にか近所の川にかかっている、橋にたどりついていた。


「はぁっ……はぁっ……ちょっと……いきなり……こんなに走り回されたら、息が切れるに決まってるでしょ!」

「ご、ごめん。自分でも少し、反省してる」

「少しじゃなくて、反省してね」

「……はい」


 少し離れた位置で彼女は、私の方を見てくすりと笑うと、一歩私の方へと近づいてきた。

「ねぇ、この際だから、聞いて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

「えっと……うん、いいよ」

 私が言い淀んだのは、先程彼女のあんな姿を見たばかりだからだ。

 散々走り回した私が言うのもどうかとは思うが、一体、彼女は何を伝えようというのだろうか。

「……私ね、ユウキのこと、好きだよ」

「……えっと、私も、好きだよ?」

 何を、当たり前のことを言っているのだろうか。

 私は今も昔も、さっちゃんのことが大好きで、だからずっと唯一の友達で、親友のつもりだ。

 けれど、彼女は違うのだろうか? 急に、不安になってきた。


「多分、ユウキが思っている好きとは、違う好きだよ。異性ではないけれど、私は貴方が好き。恋愛対象として……ね」

「……そ、そうなの?」

「うん、多分、ユウキが思っているよりもずっと、真剣に」

「い、いや、真剣に言っていないとは思ってはいないけれど。私達、女の子同士なんだよ?」

「それが、どうしたの?」

 彼女は、真剣だ。

 きっと、女の子同士だとか、そういったことじゃないんだろう。

 彼女の思いに、私が応えるかどうか。

 きっと、それだけの話なんだ。

 それ以外に、この場には必要ないんだ。

 だから、私は、さっちゃんにちゃんと、応えなきゃいけないんだ。

 私の、素直な気持ちを。


「……私も、さっちゃんのこと、好きだよ」

「それは、恋愛対象として? それとも……友達として?」

「……多分、今は友達として。だけど、少しだけ、恋愛対象としても好き、かな」

「ずるいね」

「……うん、ごめんね」

「仕方ないよ、私だって、急だったもんね。……だけどね、いつまでも待つ気はないからね?」


 彼女はそんなふうに私に言って、ふいに、私のおでこにキスをした。

「なっ……」

「今は、これだけ。ね?」

「……もう」

「じゃあね!」

 そうして、彼女は帰っていった。

 ただ、暑いからと彼女の家に向かった筈の日は、私達の関係を少しだけ変える日になった。

 私は、彼女から時間を貰った。

 きっと、余り長い時間ではないだろうけど、彼女の想いに私がどう応えるか、しっかりと考えなければならない。

 それが、私にとっても、彼女にとっても、幸せな未来であるように。

 太陽に照らされて暑い日は、まだ暫く続くのだから――。

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