ファンタジー世界に来た筈なのに
貴重な時間を割いて読んでくれて有り難う
金、金、カネ。と俺が迷い込んだ異世界は金の亡者の様な所だった。魔法を得るのに金。剣術スキル一つ得るのに金。仕事に就くにも金が要る……何て世知辛い世界だと町へ辿り着いた時に感じたんだ。
「よぉ~エイジ。相変わらず貧乏そうな顔してるな」
「うるせぇ~!ヒューゴお前さんも負けじと貧乏じゃないか」
「違いない。二人いつも貧乏言ってる」
「ヒューゴは酒で金が無いから自業自得さ。其れに比べエイジは私達と違ってスキル一つ無かったんだからね!ヒューゴと一種にしたら可哀そうなよ」
「アンジェ。俺に同情するんなら金をくれよ」
「一発当てたら腹いっぱい喰わしてあげるわよ」
「そりゃ~良い!当たればの話だけどな。アハハハッ」
俺を囲んで馬鹿話をしている連中は、この町に辿り着いて知り合った奴らだ。
酒飲みのヒューゴ。轟剣のライル。俊足のダッジ。紅一点のアンジェ。四人は同じ村出身の冒険者だ。辺鄙な過疎村から一旗揚げようと揃ってこの町に遣って来た連中だ。
俺こと工藤英司が、この異世界『バランモラン』に迷い込んだ時期と重なる。冒険者に成ったのも同じで俺達は自然と意気投合する事に成った。
「やった!マジで此処異世界じゃん。凄ぇ~俺TUEEE伝説が生まれンのかな~それとも錬金とか鍛冶師とかでガッポリ儲けれるかな。あぁ~ハーレムとかも良いなぁ~。早く町に行こう!」
って思った事も有った。唯、現実は厳しい。無一文で知り合いが居ない俺には、辛いスタートだと言えた。
「何!町に入りたいだと。ならば、入場税を払え」
「えっ!金取るんですか?」
「当たり前だ。一回30$≪ダーラ≫銅貨三枚だ。払えないなら町には入れん」
イキナリ門前払いだ。大体俺には金処か自分の状態が如何なのかも知らなかった。チュートリアルも無ければ、チートスキルも無い。取説も無い世界で俺は、どうやって生きて行けば良いのだろう?
「よぉ!お前も金が無くて町へ入れないクチか?」
路頭に迷っている俺に声を掛けて来たのは、浅黒い肌に筋肉ガッチシの若い男だ。名前を『ライル』と言った。彼もまた俺と同じく一文無しの男だ。
「オレは仲間より一足先にこの町『ベイル』へ訪れたんだ」
こんな件≪くだり≫でライルは俺に話を始めた。奴は貧しい村の出身。一昨年、去年と不作で村は喰うモノすら無い状況らしく、大飯喰いの若い連中はチリヂリで村を離れたらしい。ライルと気の合う仲間は、行先を悩んだ結果二手に分かれた。より稼げる町を選びたかったからだ。そしてこの町へ向かったのが、ライル一人だったのだ。
「計画立ててた割に無一文なのは無謀じゃないか?」
「金は在ったさ。なけなしの300$だけどな。だけど此処へ着く前に盗賊に襲われチまって、有り金全部取られたって訳だ。殺されたり奴隷として売られなかっただけマシだったよ」
金を奪ったり殺されたりハタマタ奴隷として売られるだって!?トンデモナイ世界だと俺はライルの話を聞かされ驚かされた。
「そ、そりゃ~災難だったな。まぁ~生きてたら良い事もその内有るさ」
「そうだな。で、お前さんは何で無一文なんだ?結構良い服着てるけど」
「……コレが良い服に見えるのか?」
ライルが褒める俺の服装と言えば、麻布のシャツに麻布のズボンだ。ベルトは縄で編んだ紐に藁草履を履いていた。コレが良い服って言うんだから、ライルの村は相当切羽詰まってる事に成るんだろう。
「俺は……気が付けば、この先の森に居たんだ。訳も分からずにな」
「それって……雅かお前『彷徨い人』なのか?」
「何だその『彷徨い人』って?」
「俺も詳しくは知らないが、昔どっかの国を作った人が異世界人だったって話で、それ以来、時々迷ったようにこの世界に来る連中を何時からか呼ぶんだ」
「……あぁ~じゃ間違いない。俺はその『彷徨い人』って奴だ」
だからと言ってライルは驚かないし、この国も特別な事はしてくれない。独り労働者が増えたって思う程度なんだと。地球じゃ凄い騒ぎに成ると思うが、ある意味寛容と言うか素気ないモノだ。見世物にされるよりマシだと思う事にした。
「此処からが相談なんだが、俺達は二人とも金が無くて町へ入れない。金が無いなら作るしかないと思うんだが」
「作る?金をか」
「そうだ。独りじゃ無理だが二人なら出来る。お前には悪いが、出来れば俺の仲間の分の併せて四人分も一緒に稼ぎたい……頼めないか?」
金を作ると言われ偽金造りかと驚いたが、よくよく聞けば狩りを一緒にしたいと言う話だ。断っても良いが、そうなると俺も何時までも無一文だ。それにこの世界の狩りも知らないから丁度いい経験に成ると手伝う事を約束した。
「マジでヤバかった。たかが兎如きで命を落としかねない所だった」
「角兎はHPは低いが、あの角が厄介なんだよ」
「HP?あぁ~生命力ね。じゃ~罠に嵌めればイチコロって事か」
聞けば簡単な話だ。角兎は跳躍力を活かした突進が武器らしい。但し、攻略方法は在る。動きが直線的なのだ。そして突進の後には大きな隙が出来る。其処に攻略の手口が在るんだとライルが教えてくれた。
「じゃ~突進を抑える盾と弓が在れば良いのか」
「俺達にそんなモノは無いぞ」
「無いなら作れば良いじゃないか」
「作れるのか?」
「作った事は無いが、此処には丁度竹林が在るじゃないか。盾も弓も作れるぞ」
……雅かの落とし穴だ。確かに都会育ちの俺に竹細工の経験は無い。それでも、フュギュアや模型造りで培った手先は在ると思ってたんだが……。
「仕方が無いよ『彷徨い人』は全てのスキルが無いと言われているからな。作るのは俺に任せろ。但し、考える方はお前に任せる」
「悪いな。だけど、器用までもがスキルとは思わなかったよ。俺ってこの世界で生きていけるのかな?」
「大丈夫だ。『巻物屋』へ行けば売ってないスキルや魔法は無いと聞くぞ。必要なモノは皆そこで買うんだ。お前さんも町へ入れば買えるさ」
「うはっ!中に入っても金に追われるのかよ辛いな」
「アハハッ。其処は俺も同じだ。貧乏暇なしって事だ」
気晴らしにライルと話をしながら奴は作業に、俺は仕掛けるポイント探しに勤しんだ。そして昼過ぎ頃、俺達の作戦準備は完了した。
「準備は良いか?」
「あぁあ。いつでも良いぞ」
「よし!始めるぞ」
ライルが角兎を誘い込み、俺が竹の盾で壁に成る。角兎が突進後、隙を作ったらライルが弓で仕留める。
「ダッダダ」『今だ』『良し任せろ』「……ガーン」『撃て!』「シューン」
『キュウー』「……」『ヤッタ!』『おぉ~凄いぞ』
即席だけど、ライルとの連携は巧く行った。粗削りで危険はいっぱいだけど、ソレを下回る角兎の間抜けさが俺達の作戦を成功に導いた。
「イケるぞ!これならシッカリ稼げそうだ」
その日から三日間、俺達は町の近くの森で角兎狩りに勤しんだ。角に毛皮に肉と角兎は売れる処が多い。思ってたより早く稼げそうだ。
「ほぉ~新鮮な肉だ削ぎ方が上手いぞ。毛皮も傷が少なくて良品だなコレなら買っても良いぞ」
買い手は事欠かない。此処は町へ入る為に多くの商人達が行列を作っているからだ。俺とライルの作戦は見事に成功を収めた。
「ありがとうよエイジ。お前のお蔭だ」
「否、カイルお前の力が有ってこそだよ」
互いに褒め合い俺達は予定以上の金を獲る事が出来た。余分な金は俺が受け取れとライルは言うがキッチリ二等分にする。奴には仲間の分の入場料が必要だしね。
俺達は、ライルの仲間が来るまで町の外で野宿を続けた。資金稼ぎを兼ねてだ。町へ入れば宿に泊まる宿に泊まれば金が掛かるからだ。此処は町の入口門兵が居る。夕刻に門が終っても時間に遅れた商人達が多くキャンプもしている。野盗の襲われる事はマズ無い。つまり俺達には、格好の稼ぎ場所なのだ。
「ライル待たせたわね」
「悪い。遅くなっちまった」
「その人……誰?」
二日後に門に辿り着いたのは、ライルの仲間アンジェとヒューゴそれにダッジだ。ライルが間に入り、この数日間の話を掻い摘んで説明して俺達は挨拶を交わした。
「知らない内に世話に成ったな。良かったら俺達と一緒に冒険者をしないか!?」
俺の話を聞いて誘って来たのはヒューゴだ。仲間内で最も軽い男だけど、その分、裏表も無い。そんな奴だから気軽に声を掛けて来る。
「ちょっ!ヒューゴ。彼にも予定とか考えが在るのよ。そう気軽に声を掛けるモノじゃ無いわ。彼に失礼よ」
「……無理強いはダメ」
「そっか!?俺達と一緒でエイジだって金が無いんだろ?なら付ける仕事と言えば冒険者しか無いンじゃないか?」
「否、ヒューゴ。俺はこの数日エイジを見て来たが、コイツには俺達が及びもしない知識と知恵が在る。巧く行けば商人の下で働けるかもしれん」
ヒューゴの誘いに俺が応える前にアンジェが止め、ライルが他の道を示した。まぁ~確かに、俺に命の遣り取りをする度胸も覚悟も無い。それでも魔法と剣を振り回す冒険者も棄て切れない気持ちも在った。
「あぁうん……じっくり考えるよ。ヒューゴ誘ってくれて悪いな。アンジェ!俺の事を考えてくれて有り難う。ライルこの数日楽しかったよ。ダッジもスマナイな」
無事町へ入った俺達は、そのまま一泊し、夕食を共にした。そして翌朝、こんな会話を交わして別れる事に成ったんだ。彼等は冒険者ギルドへ俺は『巻物屋』へとそれぞれの道を進んだ。
さて、今の俺に一番必要なモノは魔法だろうか?スキルだろうか……ライルと共に兎狩りをしている時、LVが上がった事は間違いない。だって頭の中で『レベルアップです』なんて綺麗なお姉さんのアナウンスが三度ほど流れたからだ。
問題は三つはLVアップしただろうが、俺のステータスが全く分からないと言う点だ。コレでは何を目指すかでは無く、何を目指せるかが判らない点だろう。
「いらっしゃいませ」
「此処が『巻物屋』で良いんですよね!?」
「はい。左様で御座います。本日ご利用な品は何でしょう?」
「実は……」
巻物屋に着いた俺は店員に迷う事無く、カクカクシカジカと俺の事を話し最低限必要な巻物は何かと尋ねてみる。
「お話は理解致しました。お客さんは大変ご苦労なさいましたね。御安心下さい。お薦めは『生活魔法』で御座いましょう」
「生活魔法?」
「はい。自分のステータスの確認。灯り。浄化。火付け。回復と多岐に渡って使える魔法です」
「それって……俺自身が魔法を使えるのかも判らないんだけど、大丈夫なの?」
「僭越ながら私が鑑定でお調べしましょうか?」
チョッと驚いて、期待した。鑑定とは相手を調べられるんだとワクワクする自分が居たからだ。
店員はゴニョゴニョと呪文を唱えると、青白く光った目で俺を見つめる。正直、チョッとキモイ。
「問題なくお使いに出来そうです。MPが僅かばかり存在しています」
「それで、僅かばかりのMP?でさっきの魔法は全部使えると?」
「MPとは魔素ポイント。所謂胎内に宿る魔素総量です。生活魔法を使用する際は、どれも一回につきMP1を消費します」
「因みに俺のMP値は?」
「巻物をご購入頂いて、是非ご自分でお確かめ下さい」
くっ!中々手強い。最初に使う魔法が自分を知るってのも良いかもしれないな。
「それで、その巻物お幾らですか?」
「1000$で御座います」
「……はい?」
「1000$です」
兎狩りは結構儲かった。角に毛皮に肉と売れに売れたからだ。折半で儲けの半分を手にした俺が今持って居る全財産は1350$なのだ。その7割以上も取られるのか!?……悩む……悔しい、此処に来て金に苦しめられるとは……悩んで居る俺に追い打ちを掛けて来る店員が憎らしく見えて来た。
「本来ですと、誰もが生まれてくる際に授かって来る魔法です。それだけこの世界では、必要な魔法なのですよ」
「なら、もっと安く!否、タダでも良いんじゃないですか」
「左様ですね。この世界の者ならば、奴隷でも持ってます。価値は零でしょう……ですが、だからこそ!求める方が居る限り値が付くのです。それも高額に!」
雅に守銭奴!アリ地獄のような世界。モガけばモガく程苦しめられる……金の恐ろしさ。要らねぇ~そんなモノ!と言いたくても言えない辛さ。
「毎度ありがとう御座います」
守銭奴に負けた。この世界のシステムに屈した。歯がゆい思いだ。だが、苦労して稼いだ金で買った魔法を使わないのはモット愚かだ。こうして俺は世界のルールに飲み込まれて行くんだと、地団駄を踏みながら呪文を唱える。
「名前:エイジ・クドウ。男性。年齢:23歳。基本LV4。HP45。MP8」
何と言って良いんだろう……レベルが4って事はライルと知り合う前はLV1って事じゃないか。良く死ななかったと自分で自分を感心したよ。次にHPとMPの数値だ。これってどうよ!?って感じだね。強いのか弱いのか?それに成長率も解からない。今後にどう生かしたら良いのか検討に迷う。
「しゃ~無いか。別れたばかりだけど、ライル達に相談するしかないな」
「アハハハッ。イヒヒヒッ。ギャハハハッ」
「チョッと!ヒューゴ。いい加減にしなさい。エイジに失礼よ」
「……」
「う~ん。何とも言えない数値だな」
探し続けて、やっとライル達を見つけた。彼等は驚きと喜びで俺を招き入れたよ。俺だって別れたばかりだのに、会いに行くなんて恥ずかしくて、どの面下げようか迷ったさ。でも一人じゃ答えは出ない。だから恥を忍んで彼等に声を掛けたんだ。
「やっぱり、俺のステータスはそんなに低いのか?」
「そうとは言い切れない。基本レベルに対して、HP値が高いのには正直驚いた。半面その基本レベルが低いのにも驚きだが、此処へ来たてと考えれば納得も出来る。唯、MP値は余りにも低い気がするよ」
「アハハハッ。エイジ因みに俺のステータスを教えてやるよ。基本LVは12だ。HPは50。MPは36だ。他の連中も似たり寄ったりさ。お前のMP値は幼子程度しかない。因みに基本LVは年に一回もしくは体を酷使すればアップする。そしてHPとMP値も一緒に成長するがその数値は精々1~2が一般的だ」
ヒューゴが笑いながら俺に数字の説明をしてくれた。つまり俺のMP値を上げるには限界が低いと言う事だ。幾つまで生きられるかは判らないが、鍛えられる年齢には限りがある。例えば五十歳だとしよう。今が23歳だから後27年間。と言う事は、俺のMP値は最低で8+27=35って事で今の彼等にも届かない事を指す。絶望的だ。魔法をぶっ放す!って俺の夢は此処で潰えた事に成る。
「俺はそうは思わないぞ」
そう俺を励ましたのはライルだ。彼は思ってる疑問を俺に聞かせてくれる。
「一緒に狩りをして、こうしてステータスを聴けば、変だとしか思えない。最初の狩りを思い出してくれ!LV1のエイジが角兎の突進を防いだんだぞ。それって、ドレ位の事か皆は知ってる筈だ。多分……俺達のスキルでは見えない数値がきっと高いと思うんだ」
笑ってたヒューゴが押し黙って昔を思い出していた。自分が初めて角兎に襲われた事。初めて狩りに成功した日の事を……確かにエイジの数値は考えれば考える程、おかしな点が浮かび上がって来る。
「……MP増やす巻物在ったハズ。でも凄く高いと聞く」
ポツリと無口なダッジが放った言葉に俺は光が差した気がする。しかし、此処でも守銭奴の壁が俺に立塞がろうとしている。
「なぁエイジ。もう一度言うぜ、俺達と共に冒険者やらないか!?」
ヒューゴが思いもしない言葉を投げ掛けて来た。アンジェが頭を抱え、ダッジが黙って居る。ライルは笑みを浮かべ、俺は……驚いた顔をしてるんだろうな。
「お前に足りないモノを俺達が持ってる。俺達に足りないモノをお前は持ってるんだろ!俺たちゃ~揃って金無しだ。だけど、皆で力を併せれば、きっと強く成れる!金持ちにも成れる!そして何時か魔法も使い放題に成れそうな気がしねぇ~か」
ヒューゴらしいな。とライルが言い。アンジェが振り上げた拳をゆっくりと下していく。ダッジは黙って肯くばかりだ。そしてヒューゴは俺に笑いながら右手を差し出して来た。
「あぁ~うん……当面足を引っ張ると思うけど、その……よろしく頼むよ」
「フフフッ」「アハハハッ」「……」「全くお前らしい挨拶だよ」
「……だな。エヘヘヘっ」
棄てる神あれば拾う神在りで、俺は彼等と仲間の契りを交わし、共に冒険者としての道を歩む事にした。目指す道は違えども、守銭奴な世界に立ち向かう為、俺達は贖う。地面を這い蹲ってでも大金を掴んでやる!そしていつか……大魔法使いの夢もこの手で掴んで見せよう!