赤い手
彼女は浮気症だった。
なんで僕がいるのに恋人を作ってしまうのだろうかと少し考えてみた。一番の原因はやっぱり一緒にいられない、ということだろうか。彼女が家で家事をしている間、僕は仕事、カメラマンをしている。モデルがなかなかいいポージングをしてくれないと少しイライラするけど、彼女の顔をみるとそんなものは吹き飛んでしまう。
そして今日も家に帰ると彼女はいなかった。どうせまた別の男と遊んでるだろうとか、家に帰ったら説教だとか、そんなことすら考えなくなってしまった。慣れた、わけではないが、もうどうでも良くなってしまった。ほぼ何も入ってない冷蔵庫からビールを取り出し、だらだらとテレビを眺める。それが彼女がいない夜の過ごし方。
眠かった訳ではないが、いつのまにか意識が落ちていた。そうだ、もう我慢ならない。彼女と話をしよう。話をしない時が済まない。時刻は既に深夜1時だったのに、家にいない。これじゃあ僕の金が持たない。
スマホを取り出し、唯一のお気に入りに登録してる彼女のケータイに電話をかけた。
いち
に
さん
よん
四回コールしたが彼女が出ることはなかった。本当は使いたくないんだけどあの手を使おう。GPSだ。これは彼女と合理の上で使っているのだが、帰りが遅い最近はしょっちゅう使っている。今日もまたいつもと同じ場所にいるようだ。仕方ない、迎に行ってやろう。
今日でおしまいだ。
GPSが示す場所は歩いて10分の全然遠くない家だった。ここにいるんだな、彼女が。決心した筈なのにまだ手の震えが止まらない。その手でインターホンを押した。カメラ機能はついていないようだ。
ピンポーン
静かな住宅街に鳴り響いたチャイム。静かな住宅街に鳴り響く心臓の音。いまにもはち切れそうだ。
少しバタバタと音が聞こえたあと聞きなれた声が聞こえた。安心するあの声。何度も何度も聞いてきた声。それなのに。
「はーい」
それなのに。く
ガチャ
それなのに
「どちら様ですかー」
なんで知らない男の家にいるんだよ
彼女は一瞬ビクッとして、目線をウロウロさせた。
「あ、えっと、ごめん。とりあえず上がって」
無言の抵抗。彼女の目をしっかりと見つめた
。反省はしてないんだろうな。いいよ、終わらせてやるよ。
「ほんとごめんなさい。騙すつもりはなかったんです。」
彼女は双方の男に謝った。平謝りというやつだ。せめてもの償いに彼女はコーヒーを出してくれたが、今更遅い。
「ごめん。もう信用できない。別れよう。」
「そんなぁ……」
彼女は両手で顔を塞いでしまった。肩を震わせながら泣いている。せめてもの償いを一口。
「ちゃんとこちらの方にも謝って。」
ただ隣で呆然としている男にもの声を震わせながら謝罪した。男は納得はしていないものの許してあげる気になったのだろう。そしてホッとしたのかコーヒーを一口。彼女も泣きつかれたのかコーヒーを一口のんだ。
「じゃ、僕仕事あ」
あれ、なんだろう、急に眠気が、あ、落ちる。立ち上がった瞬間倒れてしまった。その時聞こえたのは彼女の悲鳴だった。
そして視界に写ったのは赤い手だった。この手はあの優しい優しいあの手だ。ダメだ睡すぎる。
「あーあ。やっと寝たか。使えねー男ども。」