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その後も放課後はいつも通り事務所へ行き、いつもと変わらない――依頼一つない退屈な時間が過ぎた。
私は例のごとくゲームをして過ごした。
そして日曜日。
お花見の日である。
お花見は家の近くの神社で毎年行われていた。家からは徒歩15分くらい。もう後5分ほど歩けば駅に着く。
私は歩いて神社へ向かう。
ギンさんと一緒に。
「皆はもう神社に?」
「ええ。お嬢が寝ている間に……」
「それは私が寝坊したみたいに聞こえるんだけど……」
今は午前八時四十分を少し過ぎた頃だろうか。
ギンさんは色の薄いサングラスをかけている。
「いえいえ。別にお嬢が寝坊したなんて一言も言ってませんぜ……。ただ、皆は花見の用意のためお嬢が寝ている間に出て行っただけです」
「父さんも?」
「ええ。光一さんも……。そして私も光一さんと一緒に行かなくては行けなかったんですけど」
「行ってないじゃない」
「そりゃ……。ねぇ」
「あれか? 私が寝坊して来ないかもしれないから付き添いで残ったのか?」
ギンさん。サングラスの奥の目が笑ってる。
「ええ。二度手間はご勘弁してもらいたいので……」
全く失礼な……。
「でも九時から始めるって聞いてたんだけど……」
「お嬢。九時から始めるのに、九時に行ったら始められるのは十時です」
「あ、そ」
「それに、そうならないために皆は準備に行って、私は寝坊助……。じゃなくて、お嬢を連れて行かねばならんのですよ」
「今、寝坊助って言った?!」
言ってないです。とギンさんは言う。けどサングラス越しの目は随分と楽しそうだ。
「それに……。お嬢は特別なんすよ……」
それは私が特別寝坊助だと言うことだろうか?
「とは言え、着きましたぜ」
神社の階段の前までやって来た。
神社は私の住む町の小さな山の上に立っている。
神社の入り口には鳥居が立ち、石段が続く。それほど長い石段ではないが段の感覚がバラバラなので登り辛い。
それにしても……。石段に足を掛けてギンさんは言う。
「お嬢はワンピース似合わないっすね……」
「酷い事を言う」
「いや、そう言う訳じゃなくて……。なんて言うか、見慣れないなぁって」
今日は白のワンピースに紺色のパーカーを羽織っているのだけど……。
似合わないとは失礼きわまりないな……。
確かに滅多に着ない服ではあるけど、私だって女の子なので可愛い服だって着たい。
「お嬢はほら、休みの日はジャージとか着てるじゃないっすか……」
それは部屋着だ。
友達と出かける時は普通にお洒落している。これでも女の子だ。
まぁ、スカートとかワンピースを着る事は滅多にないのだけど……。
「着替え帰ろうかなぁ……」
「いやいや。お嬢! 可愛らしいっすよ!」
ギンさんは慌ててフォローするが、その慌てる感じが何とも腹が立つ。
「お嬢! 似合ってますよ!」
さっき似合わないって言ったのは誰だ?
「いやぁ、光一さんにもその格好をお見せしなくちゃ! ね?」
何が、ね? だ。
「じゃあ、私に似合う服って何?」
しばし、沈黙が流れて……。
「袴」
ギンさんは答えた。