落下物
ある日、学校に向かう道すがら、ふと上を見上げると、群青色で塗りつぶしたような空が広がる中に、ぽつんと墨汁を垂らしたような黒い点が在ることに気が付いた。
その点をじっと、目を凝らして見ていると、だんだんと点は大きくなっていく。そのうち、それが点ではなくこちらに向かってくる物体だ気が付いた時には、私の数メートル横に落下し、その破砕音が耳を貫き、破片が頬をかすめる。私は腰が抜けその場にへたりと座り込んでしまった。私は思考が追いつかずぼうっとした状態で落下物を見た。落下物道路の端に垂直に突き刺ささっている。は細長く円柱状で先端には箱の様な物が付いており、また円の中心を貫くように何本かの棒か刺さっていた。
そこから少し時間をおき、ようやく我に返った私は、エンジンを吹かした音が近づいて来るのを聞いた。慌てて落下物とは逆の道の端に避ける。とたんに青い大型のトラックが私の視界を覆うように通り、落下物の横で停車した。とたんにトラックから数人の作業服を着てヘルメットを被った男達が降りてくる。男達は落下物を触り、メジャーや定規でそれを計った後、カラーコーンや黄色と黒の縞々のバー、そして工事現場でよく見る重そうな機械をトラックの荷台から下ろしていく。途端に男達は世話しなく動く。
しばらく堅いものを削ったり、叩いたりするような轟音が響いた後、男達は満足げな顔をしてカラーコーンやバーや機械をトラックの荷台に片づけていく。やがて荷物を全て荷台に乗せた後、男達の中の一人がこちらに近づいてきた。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。」
男は笑顔でそう言うと、さっさとトラックに乗り込み、そしてトラックは来たときと同じようにエンジン音を鳴らしながら去ってしまった。私は落下物に目を向けた。そこには真新しい電柱が立っていた。
私は呆然としながら空を見た。群青色の空の中に、墨汁を垂らしたような点がいくつか見えた。