Phase8 魔法陣
朝起きると、体の節々が痛い。正直しんどいので起きあがりたくなかったが、昨日夕飯を食べていないので腹が減った。
食事をとりに部屋から出るとレミアはいなかった。
どうやら先に食べたらしい。
マスターに食事を頼み、久々に一人で飯を食べるな、などと思っていると、魔法使い風の女性に声をかけられた。
「あんたこの前レミアさんに抱き着かれていたやつだろ?」
どうやら見られていたらしい。軽く雑談しているとこの人はメリッサさんといって、魔法使い兼魔法陣研究者らしい。
魔法陣というのは何なのか気になったので聞いてみると、魔力を注ぐだけで魔法を発動できるものらしい。
ただ、繰り返して使用すると魔法陣の線と線が繋がってしまい暴走することがあるので、使い捨てのものはあまり気にしなくてもいいらしいが、魔道具の核にする時は魔素遮断溶液を使って線が繋がらないようにするそうだ。
魔道具に魔法陣が必要なことを初めて知ったので聞いてみると、簡単な効果のものは魔道具として商品化されているが、簡単なものを高価な魔道具を使って再現することに需要はなく、難しい効果を魔道具で再現しようとすると魔法陣が複雑になりすぎて作ることがほぼ不可能な状態らしい。
簡単な効果でも需要があるのは魔法使いの杖くらいしか浮かばないそうだ。
ロックさんが作っていた杖が魔道具の一種だと知り驚く。
俺が魔道具工房を買い取ったことを言うか迷ったが、国で研究しているらしいので声をかけることはやめておいた。その後も軽い雑談をしているうちに食事もとりおわり、席を立った。
部屋に戻るとレミアが布団の上に座っていた。
血を吸われたときの感触を思い出してしまい少しにやけてしまったがすぐに表情を元に戻した。
「今日も訓練」
「一日中?」
正直一日中は勘弁してほしい。確かに俺が狙われる可能性もあるし、少しでも生き残る確率を上げるためには必要なことだとはわかっているが、昨日の訓練がさすがに辛かった。
「もちろん」
座学も戦闘もどっちもやるらしいが、諦めて従うことにした。
今日もロックさんから魔晶石を作ってくれとは言われてないし、そもそも店が出来上がらなければ何も始まらない。明日完成する予定だからすごく楽しみだ。
最初は座学らしい。とはいっても行商をする時になったら必要な知識等なので直接的には戦闘方法に関係無さそうだ。
しかしなぜ行商なのだろうか疑問に思い聞いてみると、商業ギルドに入っているならこのくらいは知っておくべきらしく。常識的な部分をさっさと学ぶべきと諭された。
少しじと目でいわれたので真面目な顔をする。
レミアの説明は噛み砕いてくれたので、この世界にまだ慣れ切っていない俺にはちょうどよかった。
ただ固有名詞が多すぎて一体何が何を指しているのかわかりにくいのでそれを一々聞いてくと、レミアもじれったくなってきたのか実物を見に行こうと言い出した。
水のろ過をする時にパムの実を通すと良い。とか食べられる実と食べられない実の見分け方とか口頭で言われても正直わからない。
ただスキルを使えば食料は手に入るし、水だって氷の結晶を作ればいいのではないか。と聞いたら、人前でもスキルを使うつもりなのか。と無表情で言われたのでおとなしく従うことにする。
そんなに遠出をするつもりはないから街道沿いに街の外を歩くらしい。
街道自体は人の手が入っていて整備されているが、街道から少し離れただけで森の中。獣の姿は見えないが何かよくわからない宮きのこなど色々と生えているのが見えた。
「あれよ」
そう言われて指さされたのは梨色のこぶし大の実だ。中を割ってみると細かい穴が開いている。
水筒を持ってきていたので、その場で水を入れてみると 実の先からポタポタと水が滴り落ちてきた。
「その水は飲んでも大丈夫」
「あまり変わったように見えないけど?」
「ちゃんと出来ているはず。使い方を理解して」
特に変化があったようには見えないのは残念が、使い方は理解できた。
泥水などでもこの実に通せばろ過されて飲用にできるらしい。
もし怪我した時に薬草とかそういうのは必要ないのか疑問に思ったので聞いてみると、即効性がないものだからないよりはマシだけどむしろ魔法使いが回復魔法を使うことが多いらしい。
魔道具で代用できないものかと思ったけど設備は買ったのに魔法陣の作り方がわからないなんて本末転倒だ。
けど、かなり高価だった資料にまだ目を通していないのでそれに期待してみるとしよう。
街道沿い、といっても少し道を外れれば森の中。意外といろいろなものが見れて有意義だった。
日も暮れてきたので帰ることにする。
戦闘方法とは関係ないことで今日の訓練は終わってしまったが傷めつけられていないので体の調子はすこぶるいい。
久々にぐっすり眠れそうだ。