Phase6 鍛冶場
俺はおっさんに会議室と銘打たれた部屋に案内された。
おっさんは他のやつも呼んでくると言って外に出て行った。
「カナメ」
レミアが俺を呼んだので 何事かと振り向くと険しい顔をしていた。
「何?」
「何も後ろ盾がないカナメが、いきなり専属商人になるのは危険」
元の世界でいくらほどになるのかは分からないがとんでもなく大金となることはわかるし、供給されにくいものだから需要も相当だろう。
大金が動くということはそれだけ危険になるというのもわかるし、レミアの懸念ももっともだが、レミアに護衛を任せることはできないのだろうか。
そう思って聞いてみると私一人じゃ足りないから最低でもCランク以上をもう一人は必要といわれた。 後で冒険者ギルドに行くことにしよう。
おっさんが人を引き連れ戻ってきたようだ。俺の作った魔晶石を見たのか皆興奮している。
その場で専属商人になる契約書にサインしようとしたが、販売物が二級以上の魔晶石の供給となっていた。
詳しく聞いてみると俺に優先権があるのは二級以上の魔晶石に関してのみで、他の物は売ってくれても構わないが他の専属商人がいる場合はそちらを優先させるらしい。
そう聞いて異存は無かったのでサインした。代表人としてロックと書かれているのでこれはきっとおっさんの名前なのだろう。
「とりあえずこの光の魔晶石を買取したいのだが一つ金貨五十枚でどうだ?」
相場がわからないがレミアを見るとすごい勢いで頷いていたので了承した。
ロックさんがこの魔晶石がどのように使われるか気にならんか?と聞いてきたので鍛冶場内を見学させてもらうことにした。
金属を溶かすための炉が動いているからかかなり暑かったが、鍛冶場内は意外と整理整頓されていた。弟子達が汗だくになりながら金属を鍛えているが、それを見たロックさんがまた弟子達を怒鳴りつけたのでかなり怖い。
しばらくすると怒りが一段落したのか何かを作り始めた。
その作業を弟子達と一緒に見学する。何を作っているか気になったので弟子に聞いてみると恐らく魔法使い用の杖だろうといわれた。
それから小一時間はたったであろうか。ロックさんはうむ。といって作業をやめた。
「小僧。その杖を持って軽く光系の魔法を使ってみろ。」
スキルは使ったことあっても魔法は使ったことがないのでレミアに聞いてみると、起こしたい現象をイメージしながら魔力を放出すればよいらしい。ただ、人によってある程度の向き不向きがあるみたいで、適正がある人ほど魔力から現象への変換効率がよいらしい。
小さな光を起こそうとイメージしながらスキルを使う感じで魔力を放出してみると、イメージより強めの光が出現した。
「なかなかの変換効率だろう。光系しか増幅は出来んがな。」
杖について聞いてみると、増幅したい属性の魔晶石が必要らしく、一般的な魔法使いは得意属性だけ杖につけておくそうだ。
もちろん杖がなくても魔法は使えるが、四級程度の魔晶石を使った杖を持っている方がよいらしい。
杖をおっさんに返して次はいつ魔晶石を持ってくればよいか聞いてみると、光系と水系の魔晶石が足りないらしいので、今ある分だけでも渡してほしいと言われたので、魔力を百ずつ消費して光と水の魔晶石を作成した。
水の魔晶石は初めて作るが普通にうまくいった。
「それなりに高価なものだから大量に持ってこられても買い取れん。必要になったら声をかけるから店の場所を教えてくれ。」
店の場所といっても商業ギルドに登録したばかりなので持っているはずもない。
そのことを告げると目を丸くされたが、今日売った魔晶石の代金を渡すからそれで店を買えといわれた。
今所持金は金貨で百五十枚ある。
普通の家ならば白金貨五枚もあれば買えるそうなので大金だ。
多少の贅沢ならしても問題無いので店は防衛が容易で頑丈なものを買うことにした。
店など土地関連のものも商業ギルドが取り扱っているそうなので商業ギルドに向かった。
やはりこちらは冒険者ギルドと違ってかなり息がしやすい。
受付嬢に店を購入したい旨を伝えると売買中のリストを渡してくれた。
そこには一般的な家から貴族向けのものまで書かれていた。
あとである程度改修するとして、できるかぎりいいものを買いたい。
「旧魔道具工房?」
面白いものを見つけた。魔道具というものがあるらしい。
気になったので聞いてみると、魔道具を作るためには莫大なコストが必要なのに得られるものは少ないか、魔道具を使わないほうが楽にできるものが多いのでほとんど廃れてしまったらしい。
主に魔晶石と魔素遮断用の溶液がコストの殆どを占めるらしいが、特に魔素遮断用の溶液が高価なため個人レベルでは難しいらしい。
一応国レベルなら細々と研究を続けられているらしいが、あまり成果は芳しくないそうだ。宿屋に使われていた灯りは魔道具ではないのか聞いてみると、光の魔晶石を単に固定させただけなので魔道具とは呼ばないそうだ。
この魔道具工房も数年前までは稼働してみたいだが、資金不足により研究を断念せざるを得なくなって手放したらしい。見学をしたい旨を申し出ると係の者がいるらしく、待合室に案内された。
旧魔道具工房は商業ギルドから徒歩二十分ほどのところにあった。いかにも工房らしい佇まいをしている。
中も見させてもらえるそうなので中に入ると埃がつもっていて空気が悪い。
もし店をここに構えるとしても今は魔晶石の販売くらいしかしていないので、少し手持ち無沙汰になりそうだが、値段次第では購入を検討しても良いかと考えた。
その旨を案内人に伝えると、白金貨で二十枚、中にある設備はすべて自由に使っていいらしい。お金のかかる研究用の実験用具なんて元の値段はいくらかかったかわかったものではないからきっと破格なのだろう。
他の所も案内してもらったが、ほとんどが白金貨で五枚、高くても二十枚程度だった。
いかに工房が高いのかがわかる。それでも魅力はある、魔晶石は自前で調達できるから魔素遮断用の溶液さえ購入できれば魔道具をつくることができる。レミアに魔道具の作り方を聞いてみたが流石にわからないそうだ。ただ非常に難しいらしい。
案内人に旧魔道具工房を買い取ることを伝え、改修したいことを言うと見積もりを作成してくれた。
白金貨で二十五枚ほどかかるようである。主に侵入対策用の罠や対魔法用防護壁などが高いようだ。
罠とかの配置とかはよくわからないので、レミアに任せることにした。
魔晶石の販売だけでも国などの大きな組織から命を狙われて、生きる魔晶石製造器にされる可能性があるので防備に気をつけすぎるくらいが調度いいと言われ、すこし高い気がしたが購入することにした。
一括で払える金額ではないし、分割で月に一度商業ギルドに払うということになった。
二十年かけて返済、つまり月に金貨十枚払えばいいそうだ。
今月分は今払っておいた。
魔道具について気になったので、色々調べたくなったのでレミアに図書館みたいなものはないか聞いてみると、商業ギルドから資料を買い取ったほうがよいそうなので、店の手続きのついでに買うことにした。
案内人と軽い雑談をしながら商業ギルドに戻り、店の購入手続きを済ませ、魔道具についての資料がないか聞いてみた所、資料のリストを持ってきてくれた。
お金は有るのですべて買おうとしたが、意外と一つの資料の値段が高く手持ちで全て買うことは出来そうにない。
初歩的なことが書いてある資料はどれか聞いてみると三つほど提示してきたのでそれをすべて買うことにする。一資料あたり金貨二十枚という値段を提示されたが、国家機密のような部分もあるので一般者に公開するにはそれなりの値段になるのは当たり前だと説得されたので渋々その値段で買った。日用品なども宿屋のものではいい加減足りなくなってきたのでついでに購入する。さすがに無駄遣いした感覚がある。
店の改修には三日程かかるそうなので、それまでは件の宿屋に泊まることにする。
もう夕暮れ時なのに昼ごはんを食べていないのでお腹がすいた。
「おばさん。腹一杯になるものを頼みます」
宿屋にはおっさんはいないようだった、代わりにおばさんがいた。
適当な注文だったがきっと大丈夫だろう。
「よくそんなにお金を使ったわね」
「あまり苦労して稼いだ実感が無いからお金を使っている感覚があまりないんだよね。それに必要な物だからある程度割り切れるというか」
それにしても魔道具の資料は高かった感じがある。
食事が来たので食べるが、飲み物がお酒だったようなので少しテンションが上がってきた。
レミアの頬もほんのり赤みがかかっている。
しかしこんな美少女と二人で食事ができるなんて俺は幸せものなんだなと思っていると、お酒が回ってきたのか頭を上げていられない。
元の世界では未成年だったし、お酒を飲んだことはないから酔っ払ったこともない。
突っ伏しているとレミアが俺を小突いて遊んでいる。楽しくなってきたので俺もレミアの頬を小突いた。すごくプニプニしていて癖になりそうだ。
お酒を飲んでいなければこんなことをしないのだろうな、と妙に冷静な部分が囁いてきて、突っつくのをやめる。無表情だが足りなさそうな風に見えるので一つ提案をした。
「先払いだけど俺の血を吸う?」
レミアが血を吸うとき俺に抱きついてきてくれるのでそれを目当てに提案した。
レミアはこくん。と頷くとこの場で俺に抱きつき、首から血を吸ってきた。酒による酔いと、体から血が抜けていく虚脱感でだんだんと力が入らなくなってきたが、レミアのいい匂いと感触に夢中で、幸せな気分になりながら意識を落とした。
重大なミスに気づいたので投稿しなおしました
申し訳ないです。