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phase55 弊害

 王都についた。

 道中はレミアもメリッサもいるし、今更何か特別な指示をすることも必要ない。カルビンが何かやらかしたらしく、王都に用事があるらしいので今回はカルビンも一緒だ。

 何をやらかしたかまでは教えてくれなかったけど、いつも仏頂面の猫耳少年がニヤニヤと悪い笑みを浮かべていたから聞くに聞けなかった。

 レグランドの会議のほうにもちょっくら行ってくるわって言ったら恭しく頭を下げられただけだったし、俺は必要ないみたいだ。

 俺という歯車を抜いても世界は勝手に動く、って思ったけどそれは寂しいことだな。


 馬車内は快適だった。

 というより快適にした。外見は普通の馬車だ。中身を変えた。サスペンションなんてものはないし、揺れがひどい馬車が当たり前だけど、発想を変えた。

 風の魔晶石って風魔法の増幅装置みたいなものだから、それで馬車の底と後ろを作ってやった。もちろんカモフラージュ的に外側は木製で、普通の馬車です! ってアピールしている感じになっている。

 少しめんどくさい機構だけど最近研究者たちがエネルギー・魔力変換装置なるものを作ったからそれを流用。何がめんどくさいかっていうと作るのがめんどくさい。

 でもそれだけのことはあった。属性のない魔晶石を燃料として馬車の隅っこにおいてやり、最初だけハンマーで叩く。そうすると、エネルギー放出が起きて、大部分はエネルギー・魔力変換装置にはいって、残りはハンマーを自動で動かすために使われる。

 つまり、一度燃料を入れてハンマーをたたけば地面から二十センチくらい浮いて、スーっとすすむことができるってわけだ。揺れなんてない。


 途中で翼作れば飛ぶんじゃねって思ったから、メリッサの協力のもと翼をその場で作成。軽そうな金属材でやろうって思ったけどジュラルミンとか超ジュラルミンとか超々ジュラルミンとか作りたかったけど組成がわからないので無難にアルミ製だ。

 最初の一時間くらいは翼の形に苦心したけど、ある程度形を知っているからすぐにできる。ジェットエンジンもどきに風の魔晶石と魔力伝導ができるように工夫しておけばOKだ。

 人を乗せてやるには怖かったので、最初は荷物を全部抜いて試飛行。螺旋状に飛び、大破したので馬車を取りに一度レグランドに戻らないといけないかったりしたが、自重した風の魔晶石付きの馬車でも、高速馬車で七日かかるところを、三日もかからずについたから流石だった。


 王城に入ると検問みたいなものもあったけど顔パス。

 楽だね。とりあえず知り合いの貴族には挨拶しておこう。

 そのまま馬車は直進し、馬車置き場の中に入った。

 ちゃんと翼は王都に入る前に捨てておいてあるから今は普通の馬車だ。


「カナメ子爵ですね? こちらへどうぞ。護衛の方は待機室があるのでそちらへ」


 執事服のようなものを着た男性が、案内してくれるらしい。護衛はここまでか。一人で行くのは少し寂しいが……。


 しばらくついていくと、以前晩餐会が行われた場所に案内された。

 中には数人ほどしかいない。一週間も前からきている物好きは少ないか。

 誰も知り合いがいないが、大量に目の前に置いてある食べ物を食べて暇をつぶす。正直ボッチでつらい。


「カナメ子爵でしょうか? 先日はどうも。そちらのほうでは盛り上がったようで」


 メガネをかけ、学者面な面長の青年が声をかけてきた。見たことがあるようなないような……。誰かはわからないけど、挨拶を返さないのは失礼なので咳払いをしてから答える。


「こちらこそ。ずいぶんと王都に来るのが早いですね」


 誰か探りを入れるためにあたりさわりのないことを返す。少し目を見開いてから青年は答えを返した。


「研究発表の時、僕は王都のほうにいましたからね。所長ですし、離れるわけにはいかないので。今回は子爵の研究所には完全にやられましたが……」


 ああ。研究関連の人か。どっかで見たことあると思ったらそういうことか。

 後で名前を調べておこう。直接聞くのは失礼だろ。


「まあ、それだけの研究材料を与えましたからね。成果を出してくれないと困りますよ。俺も、負けるつもりはないです」


「まあ、勝つ負けるもありますが、今回ちょっとその件で話をしたいのですがいいですかね?」


 ふむ。ボッチだしいいか。


「ええ。場所は……。適当に部屋でも借りますか」


「ええ。その辺は僕がもう手配しているので」


 流石に手が早い。そのまま所長についていく。

 いったいなんの話だろ。


 部屋は、机も床も赤く、少し不気味だった。趣味が悪いなと思いつつ、今取れる部屋はここだけだと言われたのであきらめる。密談的なことができる部屋は限られているらしいからしょうがないか。


「で、なんでしょうか話って」


「まあ、紅茶でも入れますので、少しお待ちを」


 そう言って手慣れた動きで紅茶を入れ始めた。ほのかに香ってくる匂いが素晴らしい。紅茶の味がわかるほど舌は肥えていないけど、いいやつなんだろうなって雰囲気がする。

 赤で統一された部屋に、白いティーカップはよく映える。

 一口飲んで、口の中に広がる程よい苦味に頭が冴える。


「で、話ですが、カナメ子爵は王都に常駐する気はありませんかね?」


「……王都にですか。それは何故?」


「単刀直入にいますと、カナメ子爵のされたことは王主導で行われるべきものです。今回の件で、穀潰しと罵られていた研究者はそちらにほとんど行きました。王の判断は、このままではクリノクロアではなく、レグランドに主導が移った状態が続けば内憂になるとお考えです」


 研究発表に対する文句か……。来るとは思っていたが、こうも単刀直入に言われるとなあ。

 ただ、逆らう訳にはいかないか。


「ふむ。そういう意図があってやったわけではないのですが、そうなってしまったことに関しては謝罪します」


「ええ。カナメ子爵にそのような意図があったとは考えていません。しかし研究者というのは立場が弱いものでして。今回の件で発言力の無さには臍を噛む思いです……。僕としても本意ではないのですが、カナメ子爵に警告をしなければなりませんでした」


「そんなに、研究者は冷遇されているのですか?」


「予算の面でもそうですね。基本的には金食い虫で、まだ成果を上げていませんから」


 そうか……杖以外は実用化されているものはほとんどない状況じゃなあ。


「常駐、の件はそうする場合はどういう立場になるのでしょうか? レグランドの方は今かなり大規模な実験をしていて、あそこでしかできないのですが……」


「一応僕の方で通達を受けているのは研究所解体、王都に設備移転。カナメ子爵に関してはある程度の裁量権を与える、となっていますが、正直これはどうかと思いますね」


 解体ーー。せっかくがんばって作ったのにそれはなあ。

 王としてのメンツとかあるのだろうけど、これじゃ俺を利用しようとしているだけに思えてきた。まあうちの研究所の連中が他国とは圧倒的に違う成果を出したせいだが……。誇るべきなのだろうが、やりすぎたのかもしれない。


「でもそうするしかないのでしょう? そのやり方はどうかと思いますけどね」


「僕もそう思いますが……。カナメ子爵は現在、他国から狙われていることは自覚があるでしょう。魔晶石を作るということはそういうことなのです。国としてはカナメ子爵を手放したくなく、我々研究者に関してもカナメ子爵がいなければ研究が進みにくい現状です。今の所はレグランドだけですが、確実に今の研究成果が普及すれば莫大な利益を生みます」


 いや自覚ないんだけど。そういうのは最近来てはいないし、一度変なのに襲われたくらいだ。


「はあ。他国からですか……」


「ええ。外交的なものが今は主ですがね。力づくで奪おうとするのは帝国か、カヌザーヤの連中くらいでしょう。我が国では、カナメ子爵に研究所内で独立した権限と、研究成果が商品化された時の利益の一割、その代わりに魔晶石の提供という条件になります」


「……わかりましたが、少し考えさせてください。日をおいて、また伺います」


「ええ。すぐには決められないことでしょう。良い返事を期待しております」


 めんどくさいことになったなあ。

 この国にいるためにはそうしなきゃいけないのだろうけど。

HDDが逝ってもあきらめない。

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