Phase2 選択可能数残り1
見渡す限り建物一つない草原だ。太陽は自分の真上にあるし昼ごろだろう。
階段に飲み込まれたりとか意味がわからないことが起きたからか逆に冷静になってきた。
足に草がまとわりついてきて気持ち悪い。体中が泥だらけな感じがする。でも体のどこを見ても泥なんてついていなかった。
とりあえず自分の持っているものを確認することにした。
カバンの中身をその場に広げてみるとパンフレットに受験票、筆記用具、水、ティッシュ、財布、時計、何も役に立ちそうなものはないが、合格発表を見に行っていたのでサバイバル用具などあるはずもなく、しようがない。
強いて言うなら水があるだけまだましかもしれないが、大学が始まるまでに家に帰れるか不安だ。
バックの中に荷物を戻そうとしたが、視界の端になんかいる事に気づいた。手で端のものを突こうとすると、ゲームで言うステータスウインドウのようなものがでてきた。
佐藤要
LV.1
体力100/100
魔力100/100
スキル <選択してください:選択可能数残り1>
なんというか、残念な感じだ、そう思いながらも冷や汗が止まらない。こんなものは今までゲームでしか見たことがない。現実にはありえないことに思考がぐちゃぐちゃになってくる。
しばらくしてここが異世界ってやつではないのかということに気がついてしまった。
「大学合格したんだぞ……」
思わずそう呟いてしまったが、声になっているのかもわからない、自分が帰れないのかもしれないと思うと不安と焦りで気が狂いそうでたまらない。
なんとか落ち着いてきたのでステータスウインドウを見る余裕が出てきた。見事にでスキルの所以外はまるでモブキャラのステータスだ。
百というステータスが高いのか低いのかは分からないが、そう高いものではないだろう。
とりあえずスキルの選択可能数残り1というのがよくわからないのでスキルを選択しようと思うと自動的に新しいウインドウが開いた。
-戦闘系スキル
・”大剣補正”
・”弓補正”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”毒耐性”
・”麻痺耐性”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
いやに”選択出来ません”というのが多いと思ったので生産系のものを見てみる。
-生産系スキル
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
・”選択出来ません”
-複合スキル
・”結晶作成・操作”
魔術系は土魔法補正というものだけが選択ができるみたいだが、生産系のスキルで選択できるのは何もないようだ。
他にも色々な項目を見ていったがほとんどが”選択出来ません”となっている。複合スキルが一体何なのか気になったので選択してみようとするとまたウインドウが開いた。
-複合スキル
・”結晶作成・操作”
生産系魔術系複合スキル
魔力を代償に様々な結晶を作成・操作できる。
他のスキルを取るよりかはマシそうだし、取らないという選択肢はないのでこのスキルを選択してみた。そうするとステータスウインドウの表示が変わった。
佐藤要
LV.1
体力100/100
魔力100/100
スキル 結晶作成・操作
ちゃんとスキルが追加されたようでよかった。
スキルを使ってみたいが、どのようにスキルを使うのかわからないのでとりあえず叫んでみる。
「オリハルコン出てこい!」
俺は体の中から何かが放出されたのを感じ、急に力が入らなくなってきて倒れてしまった。
眼の焦点が合わないのか夜空がぐねぐねと動いているように見える。
立ち上がろうとするが、頭の中に直接棒を突っ込まれてかき回されたような感覚が気持ち悪すぎて立てない。
しようがないので楽な大勢になるために横になろうとしたが吐き気が辛いが吐こうとしても何もでてこない。それでも吐き真似をしているうちに楽になってきた。
ステータスウインドウが開きっぱなしだったみたいなので見てみると魔力が一しかない事に気づいた。
目の前にオリハルコンっぽいものは落ちていないか探すが見つからない。
しばらく探していると爪と指の間に砂粒にも満たないような結晶が挟まっていることに気がついた。一応出来てはいるようだ。
しかし、これが一体何に役に立つのかわからない。たったこれだけのものを作るのに一々倒れてしまっては何になるだろうか。
段々、このスキルを選択したことを後悔し始めたが、もうスキルを取得できるわけでもないし、スキルがどのように取得できるのかもわからないから諦めるしかない。
スキルが一応発動することも確認したし、野宿は嫌なので歩いて街に向かうことにした。
しばらく草原で景色が変わらないのでほんとうに自分は真っすぐ歩けているのかわからなくなってくる。
感覚的には何時間か歩いたが、街のようなものは見えてこない。
地図もないから自分がどこにいるかもわからず見事に迷っていた。
さらに数時間は歩いただろうか、なんとか草原を抜けることができた。
川も見つけることも出来たし、川沿いに歩いていけば人に会えるかもしれない。
異世界らしいというか、川の水は澄んだ緑色で、川底には骨が落ちているだけで何もいない。何時間も歩いて空腹感を感じるようになってきたが、食べられそうなものは何もない。
強いて言うなら岩にコケっぽいものが生えているくらいで食べたくはないが、少量だけ食べてみて、美味しかったら採集することにした。
岩には青、黄色、赤のコケっぽいものがこびりついている。毒があるのかはわからない。どの色のコケっぽいものも毒々しい色をしていて食べられるのかもわからないが青色のやつを食べてみることにした。近くに落ちていた長い木の棒を拾い、纏わりつかせようとするが、その瞬間に木の棒が溶けてしまった。
「は?」
白い煙が木の棒から立ち上がり、強い刺激臭がする。鼻に酢をたらされ、目に酢をさされたような痛みを感じた。
「いやいやいやいやこれはまずいぞ。飢えを凌ぐためにコケっぽいやつを食べようとしたら逆に食べられるとか洒落になってないから」
そう言ったつもりが鼻水と涙が酷い有様で声にならず、その場から離れて持っていた水で眼と鼻を洗浄した。
なんとか痛みが収まってからさらに数時間歩いても、人の気配以前に獣の気配すら感じない。日も暮れて、辺りも暗くなってきた。
憔悴感と飢えを感じて心に余裕が無く、どうもうまく歩けなくなってきたので少し休憩することにした。
その場に座り込むと少し意識が朦朧としてきたがスキルで食べ物を生み出せるのではないかと思いついた。
とはいっても結晶になっている食べ物なんてあまり浮かばない。
昔科学の実験で作ったミョウバンの結晶とか食べられないだろうし、基本的に結晶は食べ物じゃないと思う。
しばらく考えていると、塩と氷を作成すれば飢えは満たされなくともまた歩けることに気づいた。
でもオリハルコンを作ろうとした時のように、魔力が足りなくなってまた気持ち悪くなるかもしれなくて怖い。
どうなるかはわからないけどとりあえず作ってみるしかない。さっきはオリハルコンとか伝説みたいなものを作ろうとしたから倒れたのだろうけど塩とかを少し作るくらいならきっと魔力はそんな減らないはず。
色々と葛藤しつつとりあえず魔力五十だけで塩がどの程度できるか実験してみることにした。
「魔力五十を代償に、塩よ出てこい!」
その瞬間目の前が真っ暗になったが気絶はしていない。体を起き上がらせてみると自分を中心に塩が作成されていた。自分の体の上に塩の山ができたため目の前が真っ暗になってしまったようだ。
流石に多すぎる。でも魔力百くらいで砂粒にも満たないとはいえオリハルコンができるということはこんな結果になるのは妥当なのかもしれない。
氷もうまく作成ができたので水分には困ることは無さそうだ。
塩と氷を混ぜて、水筒の水を注いで飲んでいると、空腹感は紛れないが歩く気力は湧いてきた。
正直いつまで歩けばいいのかわからないからかなり重い気分だが、死にたくはないし歩き続けよう。