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Phase11 レベル

 訓練の後、店に帰ってすぐに寝た。それなのにレミアに打たれた所が痛くて、夜何度も目覚めてしまってあまり眠った気がしない。起きあがるのが億劫だ。ドアがノックされたのでどうぞ、というと、部屋に入ってきた。


「体の調子はどう?」


 てっきりレミアだと思ったが入ってきたのはメリッサだった。寝巻姿だからか普段の大人びた雰囲気がなくなっているように思える。


「全身が痛くて動きたくない」


「どこに行けばいいのかわからなかったから適当な部屋を借りたわよ。」


「一番上の階ならどこを使ってくれてもいいよ」


 声を出すのも少しつらい。そんな様子を見かねたのか、メリッサがマッサージしてくれるらしい。女の人にマッサージしてもらえるなんて初めてのことなので、心臓の音が耳もとで聞えるかのような錯覚に陥った。

 取り敢えず頑張ってうつ伏せになると俺の腰を太ももで挟むように乗っかってきた。驚いて体がのけ反ってしまったが、次の瞬間メリッサが俺の肩甲骨のあたりを押したのか、痛みのせいで、考える余裕もなくなってきた。 少しでも太ももの感触を楽しみたかったがそれどころではない。十分も経っていないだろうが、かなり長く感じた。


「軽くなっている」


 立ち上がろうとするとすんなりと立ち上がれた。さっきまで動かす気にならなかった腕も普通に動くようになった。


「でしょ?みんな私のマッサージを痛いって言うけど最後にはそう言うわ」


 そう言いつつ俺の腰から離れてしまい、少し残念な気分になった。腰あたりに暖かい感触がまだ残っている。訓練したらいつもマッサージしてもらいたいな、と考えていると顔がにやけてきたのが自分でもわかったのでできる限り真顔にする。


「研究設備がどんな感じか見てみたけど、すぐにできる感じではないわね」


「何が必要?」


「魔晶石はいいとして、魔素遮断用の溶液とか伝導帯とか色々ね。正直かなりお金がかかると思うわ」


 お金がかかる、といっても今日はロックさんに魔晶石を売りに行く日だから、大丈夫なはずだろう。

 そう言えば魔晶石を作っていなかったので、適当に魔力を使って作っておく。特に属性がどうこう言われた訳ではないのでまた水と光にすることにした。


「話には聞いていたけど面白いスキルだよね。魔力を対価にしているみたいだけど、それだけの魔力でよくここまでのものが作れるわね」


 作成した結晶を見てみると、研磨されていないので宝石の原石を見ているようで綺麗だ。俺の魔力量はあまり多くはないから大量に作れるわけではないが、ここまで美しいのなら研磨して宝石としてもやってけるのではないかと思った。


「取り敢えず今日はロックさんの所行った後、商業ギルドで材料を買って、その後レミアとの訓練かな」


 レミアと訓練をしている間に工房の用意をしてもらおう。明日辺りから本格的に作れるといいなあって思う。


 レミアを呼んで、ロックさんの所に向かった。 両隣に女性がいるなんて護衛とはいえいい気分になるが、周りの男の憎むような視線に冷や汗をかいてしまった。


「来たな小僧。魔晶石を貰えるか?」


 魔晶石を渡すと、ルーペのようなもので観察し始めた。


「こいつはこの前のやつほどは美しくないな。この前のは一級相当だったが、これは二級位だ」


 適当に作ったのがまずかったのだろうか。スキルの使い方によって同じものでも変わるみたいだ。

 ルーペっぽいものを渡されたので見てみると、縦方向の線が殆どだったが、横方向のも混ざっている。


「品質の悪い魔晶石は黒っぽい点とか白っぽい点とかが入っていることが多いが、これは不純物だからないほうがいい。品質がいいっていうのは、不純物がほとんど入っていないのはもちろん、縦方向なら縦方向だけしか線が入っていないものや、そもそも線自体が入っていないもののことだが、これは不純物が殆どないが縦横に線が入り交ざっているから二級位だ」


「それが何か変わるのですか?」


「主に魔素伝導率が変わるな。そうすると魔力の魔法への変換効率が変わるから、やはりいいものを使った方がいいぞ。取り敢えず今回は金貨で九十枚だな」


 その場で作りなおして高めに報酬を貰いたかったがお金の入った袋を渡されてしまい言い出せなかった。

 魔晶石は三つ渡したから一つあたり金貨で三十枚か。白金貨単位でしかお金を使ったことがないので、金貨一枚は細かいものでくれるようにお願いしておいた。そうすると銀貨が九十九枚、 銅貨が百枚渡された。

 どうやら金貨百枚で白金貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、銅貨百枚で銀貨一枚のようだ。他にもオリハルコン製の貨幣があるらしいが、使うことがあるのだろうか。


 ロックさんに別れを告げ、商業ギルドに向かう。

 お金はあるからある程度買えると思う。

 商業ギルドにつくと、ほとんど人は居なかった。巨乳な受付の人がいないか軽く見渡したが、どうやらいないようだ。とりあえずすこし禿げかけているおじさんが今は受付をしているみたいだ。 何が必要なのかよくわからないので取り敢えずメリッサに任せた。

 しばらくすると見積もりが出来たみたいだ。紙を渡されて、合計金額を読むと、白金貨一枚と金貨五十枚とかいう今すぐには払えない金額だった。


「工房としてやっていきたいなら最低限のものを揃えたとしてそれくらいになるわ。ただ、二枚目を見てくれる?」


 二枚紙があったことに今気づいた。読んでみると、金貨で五十枚くらいかかるようだ。


「個人が出すにはかなり高いけれど、その値段が魔道具の研究をする最低限のものを揃えた時の値段よ」


 家が一体何軒買えるのだろうか。工房の前の持ち主が廃業してしまうのもわかる気がした。本当はこれに魔晶石の値段がかかるみたいなので、これでも抑えられているらしい。


「わかった。それで頼む」


 在庫はあるようなので、直ぐにでてきた。布みたいなものや、茶色の液体など色々ある。

 一番重そうな茶色の液体を持って、他のものはレミアとメリッサに持ってもらうことにした。


 店に戻ると、メリッサは準備するから。と言って工房で何やら作業をし始めた。見ていてわからないので後で教えてもらうとして、レミアと訓練することにした。

 体が痛くなるのは嫌だな。と思っていたのが、顔に出ていたのか、今日は座学だけにしてくれた。工房から出て、レミアの部屋に向かう。


 いつの間にか色々なものを買っていたみたいで、レミアの部屋は少し散らかっていたが、女性特有のいい匂いがする。 思わず目をつぶって匂いに浸ってしまったがしょうがない。

 レミアがいつの間にか椅子を用意したみたいで、それに腰かける。


「迷宮は見たことある?」


「ないかな。レミアと会った日に、肉の迷宮の近くに居た位かな」


 あの日は本当につらかった。でも迷宮に迷い込んだりしなくてまだ、運がよかったのだと思う。


「危険だけど行く冒険者は多い」


「なんで危険なのに行くの?死ぬかもしれないのに」


「それが冒険者だから」


 そういわれてもよくわからないので詳しく聞いてみると、迷宮は一攫千金の場所らしい。

 魔物を倒してお金になる部位や魔物がもつ魔晶石を換金すればそれだけでもいい収入になるし、迷宮の管理者、俗にいうボスを倒せば迷宮の核、少し上質な魔晶石が得られるらしい。

 魔晶石は単に鉱脈を掘るだけでも出るが、迷宮からでる魔晶石のほうが質はいいそうだ。


「魔晶石なら自分で作れるし俺が迷宮に行く必要はないかな」


「いいえ、行くべき」


 ロックさんとの取引が不定期だが、お金はある程度稼げるのに危険を侵す必要があるのだろうか。


「普段の訓練だけでは駄目なのか?」


「足りない。弱いやつしか相手にさせないから行く」


 迷宮に一人放り込む何てことはしないらしい。レミアとメリッサがついてくれても、正直不安だ。

 迷宮に入るためにも防具を買いに行くことになったので先ほどロックさんのところに行ったばかりだが、また行くことにする。

 ロックさんの所にいる時にそういうことは言ってくれればいいのに、と思うが歩いてすぐだしあまり文句は言わないでおこう。

 レミアの部屋から出て、工房を覗くとメリッサがすごく集中して作業をしているのが見えたが、声をかける。


「迷宮に行くことになったから防具とかを買いに行きたいから護衛してくれない?」


「迷宮に入る。といってもレベル上げのためならレミアか私が足止めして後ろで魔法でも撃っておけば上がるんじゃない?」


 作業を中断されたからか少し不機嫌そうだ。かなり集中していたみたいで顔に茶色い液体が付いているのも気づいていないようだ。


「魔法だけじゃダメ。近接も」


 レミアは俺をどこまで鍛えれば気が済むのだろうか。必要なことだとわかっているけど根を上げたくなる気分だ。

 とりあえずメリッサに用意を整えるように言っておくとレミアに話しかけられた。


「不機嫌なのは気にしない」


 メリッサが研究でうまくいっていない時とか集中を妨げられたときはいつもそうなるそうだ。それでも仕事はちゃんとこなすらしいから大丈夫だろう。


「わかった。まあタイミングが悪かったね……。とりあえずお金をとりに部屋に戻るよ」


 自分の部屋がレミアの部屋と違っていい匂いがしないことに少し残念に思う。


 用意が全員出来たみたいなので、ロックさんの所に向かう。

 メリッサは面倒臭がったのか白衣を着て杖を持っただけだが、それはそれで似合っている。最低限のことしかしなくても地の良い人はそれだけでも映えて見える。

 レミアは少し長めのスカートに白いカーディガンのようなものを羽織っている。 レミアの戦闘用の服の一つらしく、露出は控えめだ。薄着にも見えなくはないが、動きやすさを保ちつつ、防御力のある一品らしい。


「俺はどんなタイプのものを買えばいいんだ?」


「動きやすくて防御力のあるやつ」


「それに魔法用の杖と、剣も買うべきよ。いい加減にちゃんと整えた方がいいわ」


 順にレミア、メリッサが言った。自分の命を守るものだしお金は惜しみたくない。

 しかし、なんだかメリッサは不機嫌なのか頭を掻いたり色々と挙動が不審だ。


「ちょっと来て」


 メリッサがイラついているような表情でいった。少し怖い。


「さっきから気のせいだと思ったけど、やっぱり私達に魔法をかけようとしているやつがいるわ。それも多分精神系。趣味が悪いわね」


 挙動不審だったのは魔力を操作して防御していたらしい。どうやったらそんなことが出来るのかわからないが、今はそれどころじゃない。


「レミア。右斜め真っ直ぐのどこかに多分魔法使いがいるわ」


 それを聞いた瞬間、普段より引き締まったような表情で走り出した。

 メリッサの表情が解れていたのでうまくやったのだろうか。


「逃げられた。魔法使いみたいのもいなかったし多分私が駆け出した瞬間に逃げていたのかもしれないわ」


 逃げられたらしい。出来れば誰が襲撃をかけてきたか知りたかったので捕まえてきて欲しかったが、レミアに捕まえられないならしょうがないだろう。

 せっかく護衛を雇っているのに捕まえられず逃すなんて使えないとか色々と黒い思考に心が満たされてくる。イライラしてきた。


「本当に襲撃がかけられることなんて有るんだな」


 もしもの為に護衛を雇っておいてよかった。精神系というのが何かわからないが、かかっていたらおそらくお金とかを奪われて殺されるか、生きる魔晶石製造機にでもなっていたかもしれない。

 そんな想像をしていたら自分でも顔が青ざめてきたのがわかる。背中は冷や汗で濡れていて気持悪いし、少し漏らしてしまいそうだった。

 一体どこの誰が俺を狙うのだろうか。国か……それとも何かしらの組織だろうか。

 今までそこまで危機感を感じていなかったがレミアのいうことを聞いておいてよかった。メリッサがいなければ手遅れになっていたかもしれない。


「この街は治安が悪い方ではないからあまりそういうことは起きないと思ってたけどね。多分だけど魔道具工房を買ったのが原因で狙われたのだと思う。まあ、私達が護衛している限りカナメに指一本触れさせるつもりはないけど、万が一の為に早く買いに行きましょう?」


 その提案に何回もうなずいて、少し早足で歩いた。

 周りの人が俺を殺そうとしているのではないか、なんて被害妄想に囚われて、苦しくてたまらない。

 なんとか、ロックさんの所に無事について、安心してしまったのか座り込んでしまったがかしようがないと思う。


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