#さいごの、はち
やめてーーーーぇぇ!!!
先生マジ凶悪すぎるからそれ!!!
中身はどうあれ先生サマは紛れも無く美形、それがあたしの手に、キ、キキ…キ…、言えるかこんちくしょー!!!
「……落書きで、何度か私を描いてくれていたでしょう? 実は嬉しかった。あなたは性格上、強請もされないで嫌いなものをかいたりしないでしょうから」
え。僧侶とドラキュラと天照、ばれてた?
いや、そうじゃなく、……ええ? あたしそんなつもりはない! 確かに落書きでわざわざ嫌いなもの描いたりしないよそりゃそうだろ、だからってじゃあモデルにしたから好きかと言われれば、そりゃー先生サマくらいの顔貌なら、誰だって描くだろう!
「私のそばにいてくれませんか。不自由させない程度には甲斐性もあるつもりですが」
どうしよう。
泣く。
マジ泣く。トリハダが。
少女漫画的展開だ。超イケメンが手にちゅ-でプロポーズ、見開き大ゴマで花と点描とキラキラでラストシーンだ。
そんな王道のはずなのに。
確実に王道じゃない落とし穴がある。
……主にラブとかトキメキとか胸キュンとか。
「……先生。念のために確認したいんですが。……先生の言う結婚って、メリットデメリットで計ってませんか」
泣いていいかな。人生初の告白&プロポーズ、なのに。
「打算でする結婚が無いとは言いません。いや、むしろ相手の経済力とか考えずにする結婚のほうが少ないかもしれません。でもですよ? 昔の政略結婚じゃあるまいし、打算だけ、ってのはどうかと思うんです!」
「ちが…」
何か言いかけた先生サマ遮って続けた。頑張って、自分の右手も取り戻した。
「さっきから聞いてると、先生が読者として絵描きとしてあたしを非常に評価してくれてることは分かりました。そこは実に光栄なことだと思います。でも!」
ひ、退くもんか! がんばれあたし!!
「執筆の邪魔にならないとか絵が役に立つとか一緒にいて大丈夫とか、そーゆーことだけで、ソレって友達でも一緒じゃないですか」
うん。先生サマのプロポーズが、どうにもトンチンカンな気がしてしょうがない。そうだよ友達だよ。
「あたしは、少女漫画みたいな恋愛に夢も希望もあって、だから、け、けけ結婚とか、無理です」
ハッキリキッパリ、言った! ちょっとこっぱずかしいこと言ったけど!! よくやったあたし!!
ちょっと勝利が見えてきたところで、敵も然る者、先生サマの顔つきが微妙に変わった。やばい。勢い込んで続けた。
「あ、あの!! いつでも絵描きますよ! 読むのも! 何ならご近所に引っ越してもいいです!」
先生サマは何考えてるか分からない顔でジーっとあたしのこと見てる。どうしよう。
「どうせ宵っ張りだから夜中でも平気です! 電話一本で呼ばれて飛び出てきますから!!」
ジーーーっと見られてる。
「だ、だから、あの、……」
イカン。涙出てきた。どうしよう。
頑張って堪えてたけど、耐え切れなかった涙がホロッとこぼれたら、後は止まらなくなった。
だって、だって、おかしいよ。変だよ。先生サマほどの美形なら選り取りみどりじゃんか。なんで選りにもよってあたしにそんなこと言う訳。
絵が欲しいなら、いつだってちゃんと描くし。挿絵の話とかあれば超頑張るし。
えぐえぐと、しゃっくりが止まらない。鼻水も出てきた。
はぁー、と先生が深くため息ついた。
……スイマセン。止まらなくなっちゃったんです。ちょっと放っといてくれればいいですから。っつーかずっと放っといてくれていいですから。
「焦って申し訳ない」
ゆったりと背中に腕が回されて、落ち着かせるようにポンポンと叩かれた。
え。先生のシャツに鼻水付いちゃいます。
「この挿絵が終わってしまったら会える口実もなかなか無いので、気が急いていました」
背中をトントンと子供みたいに宥められて、ちょっと、しゃっくり治まったけど。
「……早すぎました。先ずお友達から始めましょうか」
あ。うん。そうだよ。そうだよね。お友達だよお友達。
「……ぅぎゅ……」
鼻詰まって変な声出た。うん、って言いたかったんだけど。
「ふ、ぅん、しょーです、け、結婚とか、おかしいし」
お友達。うん。それなら安心。
「絵のために引っ越してはくれる訳ですか」
「え、あ、うぁい」
とりあえず、涙は止まった。まだ鼻はぐずぐずだ。
「物件を探すのも大変です。友達だというなら、ルームシェアしましょう。どうせあの部屋は使っていないのだからちょうどいい」
「ぁい、うん、そんなら」
うん。ルームシェアか。そっか。そんなら。あ、でもお家賃いくらだ。
「それで、追々本気だと分かってもらいます。忍耐には自信がありますから、そこは信用してください」
「ん? え?」
ぅえ?
「恋愛に夢も希望もあるというなら、叶えるべく努力しましょう」
……え? あれ? あれれ?
「段階を飛ばして申し訳ない。あなたが中身も中学生レベルだとうっかり失念していました」
へ? あれ? お友達、だよね?
「せんせ…?」
身を引こうとしたら、ぎゅっとされた。
「……忍耐には自信があるんですが。完全に安心されてしまうのも癪なので」
これだけ、と耳元でささやかれて。
……ほっぺに、何かが。
「今はね」
……土下座。やっぱり土俵際でうっちゃり。
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