#さいごの、ろく
じぃん、と、してたら。
「さて。4作目ではもう一つ課題があったんですが」
スルリと首に冷たいものが巻きついた。
「ちょっとじっとしてください」
へ?
隣から先生が両手を伸ばして、何か首にかけられてる?
「できた。念のため聞きますが、金属アレルギーなどはありますか? チタンのチェーンなので、アレルギーはでにくいらしいですが」
首元を触ったら、これは、チェーンと、……指輪?
「この前の指輪です。先日受け取ってきました。あなたは手に指輪などしないでしょう? だからチェーンもおまけです」
「……え? って、あの、エンゲージリング?」
そういや、そんなものもあったな。っつかアレ本当にイニシャルまで彫ったの受け取ってきたのか。
………いや、今問題なのはそこじゃない。
「なんで今あたしの首に? ちょ、先ず一旦外して、これ、え? なに、どうなって…?」
慌てて外そうと留め金探ったら、……これどうなってるの?
「ちょっと変わったアジャスターだそうです。脱落防止に頑丈なタイプで慣れないと外しづらいようですが、外さなければいい話ですよね」
イヤイヤイヤイヤ、そうじゃなくてですね!
先生サマ、なんて胡散臭い爽やか笑顔なんだ。危険信号過ぎる。
「4作目、恋愛要素が欲しいと言っていたでしょう。この件は、作中どう決着させるか未だ思案中です」
ぅへ?
「そんなことも言ったかも知れないですが、それは作中の話で! その時あたしは自分がモデルとか知らないし! 恋愛とか意味わかんないし! それにこのエンゲージリングって嘘っこでしょ!?」
チョイ待て! いくらあたしでも嘘で恋愛はできない!
「本物です。なんなら鑑定書も見せましょうか?」
「違う! 意味が違う!」
なに寝ぼけたことを言ってくれるんだ先生サマ。
睨み付けたら、余裕の顔で笑われて更にムカついた。分かっていてボケやがったな。
「小説にかこつけていますが、本気ですよ。信じられないのなら、いくつかの証左がありますが」
へ?
「考えても見てください。私が、仕事の関係者とはいえ、誰でも彼でも自分のテリトリーに入れる人間だと思いますか?」
え?
「あ、むしろガード堅そうな感じですけど」
「でしょう。では、何故あなたをわざわざここに住まわせたと思いますか?」
ええ?
「……イラストのため、……と、観察のため…?」
何を言い出すんだ大作家先生サマ。
「そのためだけに、半ば拉致するようにここに連れて来る必要は? 時々呼び出すだけでも用は足りたとは思いませんか?」
………。
嫌な予感しかしない。ちょっとその辺で黙ってくれないか先生サマ。あたし今すぐ立ち去るから。
立ち上がろうとして、両肩を押さえ込まれた。寝心地抜群のこのソファ、今はそのフカフカっぷりが邪魔だ。
「逃がさない、と何度言えば分かってもらえるのでしょうか」
ヤバイヤヴァイ。この体勢はやばいって。
退く、って、つまりこーゆー危険があるってことですね。実地で理解しました。今後は押されても退かずに前のめりを心がけます。
「ご両親も応援してくださっているようですよ? 先日はお母様からお電話をいただきました」
「え、それ知らない! なにそれ!!」
「あの雑誌をご覧になったようですね。これからプロポーズをしたいんだと言ったら、激励されました」
おかあさぁああああん!!! っつか何でお母さんが先生の連絡先知ってんだ!? あのハイテンションな長電話はそのせいか!?!
いやそんな追求は後回しだ。
今はこの危険をどう回避するかが最重要課題。
……先生実は自分から告白したことが無い人。