#さいごの、いち
……どうして、こんな……。
ぺらりと捲った手書き原稿。まだ途中だというそれを読んで、愕然とした。
『高尾紅葉』の4冊目。自己否定を一貫したテーマに、精神と外見と肉体を否定してきたシリーズ。
4冊目は。
まだ結末の無い4作目は。
4冊目。年に4冊って言われたら、普通3ヶ月に一冊計算だよね。
前回が大幅に締め切り前で上がったことを計算に入れても、そろそろ次取り掛からないとやばいんじゃないかと思う。
次に取り掛かる頃に連絡するって言ってたのに。
「……なのに、何の連絡もない……」
久々に自分のアパートに帰って、しばらくは羽を伸ばしたし、オネーサンはあたしが自由の身なのを知っていて、助っ人アシの話や雑誌のカットを回してくれたから、ビフォー大作家先生な日々を過ごした。振り回されることも無く何事も自分のペースでできる。自由ってスバラシイ!!
……が。
4冊目、どうなってるんだろうか。
先生、また行き詰まってるんじゃないだろうな。
藤埜サンに連絡してみようかな。
………自ら進んで大作家先生サマのところに行くのは、ちと抵抗がある。
なにせ、お母さん騙くらかしてくれたおかげで、実家に顔出すと必ず先生の事を聞かれる。根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で、最近はアレコレ言い訳して実家に行ってない。
そうすると、当然お母さんのご飯が食べられないわけで、先生サマにおいしいお店連れまわされた舌は、コンビニ飯も自分の料理も不味いと文句を言う。……餌付けされた。
自分の貧しい食生活を反省し、ちょっと気合入れて自炊しているんだが、料理はなかなか上達しないし。指切るし。商売道具の指になんてことを! くっそうそれもこれも全部先生のせいだ!! と癇癪おこしてもアパートに一人じゃむなしい。
先週になって、大作家先生サマのインタビュー記事が載った雑誌が送られてきて、巨大な猫被った爽やか笑顔の大作家先生サマが、当たり障り無い質問に当たり障り無い回答をしていた。
しれっと左手に指輪嵌めてるし。プレイベートも充実してますなんて応えてたし。充実ってなんだよ一人で執筆に没頭できますってか。
その記事のおかげでお母さんの長電話に付き合わされる羽目になった。どうしてくれよう。
そんなこんなで、自分から直に先生に連絡するのは嫌なのだ。
でもお仕事気になるし。最初のときみたいに超特急で描く羽目は嫌だし。
進み具合、確認するだけなら、いいよね…? 大丈夫かな…? とビクビクしながら藤埜さんに連絡してみた。
そしたら、直ぐに先生のマンションに行ってくださいってさ。
何だよやっぱ先生詰まってたのか、と、とりあえずスケブ抱えて先生ン家にお伺いして、そして。
「今、半分まで書きあがっています。読んでください」
と、原稿を渡された。
え? 先生って、完成するまで人に見せないんじゃなかったの? 人に読ませるときにはもう完成形であるべきってモットーじゃなかったの?
まあ、言われたなら読みましょう。
どんな主人公かな。どんな風に描こうか。
……そう思いながら読み進めて、読み進めるほどに、血の気が引いた。
4作目の主人公は、画家を目指す少女。
……これは、この主人公は、『あたし』だ。




