#よん
校正前の第一稿が手元にあるということで、その場で直ぐに挿絵の話になった。
時間がないから、大雑把なキャラクターデザインはその場でやる。でないと、表紙とカラー口絵の印刷が間に合わない。どんだけデッドなんだ。
正直、原稿読む時間も惜しいので、口頭でキャラの説明をしてもらった。
「じゃあ、主人公の女の子はこんな感じで? もうちょっと大人しい感じ? 逆にツリ目気味にしてクールな感じとか? 一重か二重かでも印象変わりますけど。あと前髪が、……この程度か、ココまでか、…こう、サイドにしても、キャラの性格違っちゃいますよね? カラーなら、やっぱアニメ塗りが基本? 彩色でもイメージ変わりますよ。色の指定は?」
その場でざっと何種類もの顔を描いていく。藤埜サンはちょっとの差でガラリと印象が変わる絵に目を見張っていた。
「はぁ…、すごいもんですね。こんなサラサラと描けるもんなんですね…」
「感心はいいから、キャラの特徴教えてください。表紙絵の入稿いつなんですか」
底辺漫画家舐めるな。デッド入稿の代原の直しとか、分単位、秒単位なんだ。これぐらいで感心するな。
「あ、はい。うう~ん、もうちょっとキツメな感じ、かなぁ…? でも見た目は優等生って文章に書いてあるし…、大人しいのかな…?」
……ええと。アナタが担当なんじゃないんですか? なんで担当が主人公キャラ分かってないの?
「これ、写真とって、大作家先生にメールしてください。今すぐ。ソレぐらい、いいですよね?」
書いた本人に聞くのが手っ取り早い。いくら大物作家だろうと自分の作品のためならソレぐらいやってもいいだろう。
はい、と藤埜サンが慌てて携帯電話取り出すのを横に、大雑把に表紙絵の構図を数パターン作った。タイトルや帯の位置を考えると、文庫本の表紙なんてさほどバリエーションがない。レーベルによっては表紙に一定の決まりがあったりするから更に狭まる。
「装丁のデザイナーさんいないんですか。タイトルの色やフォント、どうなってます?」
と、藤埜サンの携帯がチャラララ、と鳴った。
「あ、先生」
おう。噂の大作家先生か。
電話なのに起立してペコペコ頭を下げる藤埜サンを妙に親近感持って眺めつつ、あたしは表紙絵のラフを2、3枚描いた。
「あのー」
「あ、電話終わりました? どんな感じが良いって?」
藤埜サンは、左手で胃の辺りを押さえつつ、ボソボソと言った。
「今から来るそうです」
「…………だれが、どこに」
聞かなくても分かるけど、でも確認したい。
「先生が、ここに。20分後くらいに着くそうです」
フットワーク軽いな大作家先生。偶々近くにいたのか。
20分後に速攻クビってことは、……無いといいな。