#さんのじゅうく
基本、インドアな人間だから、スケッチブックさえあれば何時間でも時間は潰せる。
……しかし、迂闊に外に出ないほうがいい、とゆー制約は、逆に外出したいという思いを煽るよね。
リビングで、最早あたしの指定席と言っても過言ではないふかふかソファから立ち上がって、背伸びを一つ。
やっぱり散歩くらいはしたい。書斎のドアに向けて怒鳴ってみる。聞こえてるかな。集中してたら返事はないだろうけど。
「先生~? もしかしてあたし一人なら、ふらふら外に出ても大丈夫なんじゃないですか?」
先生サマと一緒だから問題なんジャン!
そこのコンビニでもいい。外の空気が吸いたい。あー、ついでに本屋に行きたいな。今月の新刊って何があったっけ。
そう言えば〆切ヤブリ常習の漫画家先生ンとこ、最近ヘルプアシ行ってないけど大丈夫なのかな。
大作家先生のお仕事以降アシとかの話がまるで来なくなったのはオネーサンの差し金なんだろうけど。今更気付くあたりホントあたし迂闊だな。
頭の中で外出コースを思い描いていると、先生サマが書斎から出てきた。ちょうど区切りの良い所まで執筆できていたらしい。
「……却下です。あなた一人で、もしどこぞの記者に捕まったら対処できますか?」
想像してみた。
……イマイチ、想像力が。あたしがマイクを向けられるような状況ってのが、どうにも現実味がナイ。
「だから危機感が足りないと言っているんです。危機管理というものは最悪を想定して対応を考えるのが基本です。警戒する理由があるのにそれを怠るのは愚かというより他ない」
……だからさ。イチイチ言い方がね。
「そう言うところが、人間性を評価できないってゆーんです」
「それは申し訳ない。…まぁ、文才を評価してくれているなら、私はそれで充分満足です」
くぁ。他人の評価なんか気にしませんってか。
「うっわー、平均以上の人が言うと腹立つなー」
憮然と文句言ったら、先生サマがニヤリと笑った。
「ほら。平均以上の評価は頂いているようですし?」
先生サマ。最近本性見せ過ぎじゃないですか。最初の巨大な猫は何処に行った。胡散臭い爽やかエセ紳士は。
「……そんなこんなでストレス発散したいんです。先生は外行きたくなりませんか」
「書いている間は気になりませんが。では夜ドライブでも行きますか?」
この際、先生一緒でも我慢します。外に出たいです。
「お仕事の都合が付くなら、じゃあ連れてってください」
もー、どーだってイイヤー。
夕方にお仕事切り上げた先生が約束どおり車出してくれて、ドコ行くつもりか知らないけどドライブに出発した。
少し遠出しますか、なんて呟いていたから、……遠出、ってドレくらいが遠出なんだろうか。
コンビニで飲み物とお菓子買って、長距離の構えだ。帰ってくるの深夜かな。もともと宵っ張りだから別にいいけど。
……が。
世間的に、今日は週末だったらしい。自由業って曜日の感覚がないから気付かなかった。
首都高がブレーキランプで真っ赤だ。
「……動きませんね」
「そうですね。この先のジャンクションを過ぎれば大丈夫でしょう」
渋滞で、でもドライバーがイライラしてないなら、なんてことない。
「どっち行くんですか? 渋滞情報が……、ほら」
情報表示板で、首都高のほとんどが赤やオレンジに染まっている。
「海側とか真っ赤ですよ」
時間的に金曜の終業後、遊びに繰り出すピークにあたっちゃったみたいだ。
「……ですね。行き先を変更します。山の方に」
「山?」
渋滞で動かないのをいいことに、先生は運転中だというのにギアをパーキングにしてカーナビを操作した。
ピッピと変わる画面を見ても、頭の中の地名が付いていかない。どこ行くって? 山って、山ってドコだ。
行き先設定されたカーナビは、次のジャンクションを左に行けと指示している。
方向音痴なあたしは、地図を見ても現在位置すらよく分からない人間なので、つまり行き先について推測しようなんて無駄ってことだ。
「どこ行くんですか?」
素直に聞いたのに。
「答を人に聞いては面白くないでしょう?」
……ってさ。
「少しは自分の頭で考えてみなさい。自分の行き先なんですから」
はいはい。えーっと。このジャンクションでー左が東北道?だからー?
山方面?って、こんな時間から行くドライブで山って、どこさ。
早々に答を諦めたけど、再び先生サマに聞くのも癪に障るので、話題を変えた。
「で、三冊目、進行具合いかがでしょう? 前から書いてるんだから、そろそろ見えてきたんじゃないですか」
前の車のブレーキランプぼんやり見ながら、ペットボトルのキャップを開ける。ついでに先生の分の飲み物もホルダーに置いといた。
「そうですね…、後一日二日で書きあがります」
ほうほう。それは凄い。
「締め切りまで大分余裕があるじゃないですか。なんて優等生な。じゃあ絵もそろそろ始めちゃっていいですね」
頷く先生サマに、頭の中で段取り考えた。
書きあがったら読ませてもらって、主人公のラフ上げて、藤埜さん交えてデザイン決めてー……。
「そういえば、結局ラフ描いたのボディビルダーだけですけど。主人公ってどんな感じ?」
前に聞いたのは、片親の家庭でちょっと捻くれて、でもアレコレ頑張っちゃう主人公だった。
「……そう、ですね…。外見で言うなら、どこにでもいる女子中学生でしょう。むしろ庇護が必要に見える女らしい容姿で、自分の容姿を嫌っています。無頓着を装って、清潔ではあるものの地味でラフなものばかりを身に付ける。当然ズボンだけです。制服のスカートも嫌っていて必要なとき以外はジャージ」
ふんふん。中身は可愛いのにモサダサな格好ね。
「特に病弱ではないけれど、食生活がインスタントなど偏っているので健康でもありません。成績はそこそこ良い方だけれど一番ではない。運動も女子の中では良い方」
「あー。近くに、成績でも駆けっこでも勝てない男子がいるんですか」
んで、主人公の目の仇にされちゃうのが常道だな。でもその男の子、実は主人公にラブってのが少女漫画だ。
「いえ。個人ではなく。成績面や運動面、あるいはクラス内でのまとめ役とか、それぞれ上を行く男子がいるわけです」
……少女漫画の王道が否定された。否、その皆が主人公に矢印なら逆ハーが成り立つぞ。
「主人公はコンプレックスを抱えて悩みますが、最終的には、それぞれに負けているところも勝るところもある、と納得します」
え? んで、誰かとイベントは発生しないの?
「その辺は全部主人公の環境に過ぎません」
うん。そっかー。……ライトノベルと少女漫画じゃ違うよね。
「……思うに、……いくら少女漫画でも、その発想では……」
はぁ、とため息つかれた。なんかすっげー憐れまれた気がする。……悪かったなどうせあたしは売れない少女漫画家だよ!!
話す間にジャンクション過ぎて、先生の言ったとおり、渋滞が解消された。
それで? じゃあ物語はドコで展開するのさ。
「そこで、ボディビルが絡みます」
ああ。はい。マッチョが。……震度4で逃げ出す、例の。




