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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
さんさつめのおしごと
41/59

#さんのじゅうご

 先生が三流写真週刊誌お嫌いなのは、自分がネタにされたことがあるから、だそうな。


 確かに、著名な文学賞なんてご立派な肩書きとこのルックス、多少は話題になるだろう。しかし、それだけでもなかった。


 売れっ子作家ともなると、作品のメディア化とか当然そういったお話もあるわけです。先生には、例の問題の受賞作に映画化のお話がありましたとさ。


 出版社の意向とかアレコレいろいろあってお断りもできずに、さて企画ですイザ、となってから、問題が。


 先生のお書きになるものは、はっきりキッパリ、エンターテインメント性に欠ける。人間の心理を深く抉る緻密で繊細な筆致は、映像化に向いていない。


 監督にも演じる役者にも、そして多分視聴する側にも相当なレベルが要求されるだろうと、あたしでも想像できる。


 なのに。


 監督は痛快アクションムービーに実績をもつ中堅。主演俳優には話題作りのオーディションで抜擢された新人。原作にはないヒロイン役にモデル上がりのタレント女優。


 先生サマはそりゃー憤慨なさった。だろうな。作品滅茶苦茶にされるのが目に見えている。


 しかし出版社としてはメディア化はいい宣伝になるのだ。映画化作品と帯が付けば本屋では平台に山積み、公開間近ともなるとテレビでおおっぴらに宣伝できる。本の売り上げが桁違い。うっはうは。


 んで先生サマも、一度は企画を了承してしまった以上これは仕方ない、と諦め半分納得しようとしたらしい。勉強になった、今後は二度とこんな過ちを犯すまい、と。


 しかーし! ジャジャーン!! 更なる問題が!


 映画化記念ぱーちーなんて最早どーでもーいーやー、と、やる気無く、しかし無視することもできずに嫌々出席したら、ヒロインの女優さんが先生の美貌にノックアウト!! 肉食系女子の猛アタック開始!! 嗅ぎ付けた記者さんが騒ぎ立てて、ハイ、巻頭カラー独占!!


 その女優さんあたしも知ってる。あんな美人に言い寄られて振るって先生どんだけ面食いなの、とか。自分に自信がなきゃこの美形な先生サマにはアタックできないよね、とか。フツー男の人的に、美人に言い寄られて悪い気はしないんじゃないかなー、とか。話のネタに、付き合っちゃっても良かったんじゃね?とか。チラッと思っちゃったけどさ。


 出版社に抗議しても、誰だかバレバレだけど一応仮名、~らしい~ようだと憶測推測だらけの記事、名誉毀損には当たらないときたもんだ。記事自体、主役は女優さんの方だしね。


 んでも実際のパーティ会場で女優さんに付きまとわれてる先生サマの写真がばっちり使われていては、読む人がどう思うかなんて……そりゃぁなぁ……ってことで、先生は大変困った事態に陥った。


 そんな騒ぎの中、映画化のほうは先生サマにこっぴどく振られた女優さんが降板し、おかげでスケジュールが狂って今度は監督が仕事押せ押せで撮影どころではなくなり、先生サマのあずかり知らぬところで、企画倒れとなった。……なんつー杜撰なお話だろうか。


 セキュリティの厳しいこのマンションに引っ越してきて、ゴシップなんぞ知らぬ存ぜぬを貫き、漸く最近になって先生の周囲が落ち着いたところだったんだそうな。


 そんな経緯で、先生サマは例の出版社とは距離を置きたかった。でもやっぱり出版大手だしイロイロつながりもあるし、はっきり敵にはまわしたくない、と。うーん、大人の都合ってやつだね!




 ……と、いうような説明を、藤埜さんから聞いた。


 ことの元凶、大作家先生サマは、書斎でイロイロ電話を掛け捲っている。今後の対応に苦慮しているようだ。大体先生サマも迂闊なんだ、ダシにするならするで先に言ってくれれば、あたしだってコレコレこんなことがあったのでそれは得策ではナイデスヨと応じたのに。


 藤埜さんは、ライバル社と言う以上に、その出版社には並々ならぬ恨みがあるようだ。金の亡者、作家を使い捨て、売り上げ第一、……後はなんだったかな、枕詞のように出版社名の前にマイナスの形容詞がアレコレくっつけていたのが大変印象に残りました。うん、藤埜さんがどんだけソコ嫌いかは分かったから。あ、今更言うまでも無いけど、その出版社が例の前方不注意の編集さんトコです。


 そのゴタゴタのせいで先生サマがちょいと捻くれて業界に不信感持っちゃって、継続中のお仕事以外新規は断り続けてるもんだから、今回名前変えてライトノベルって企画も、ある意味リハビリっつーか苦肉の策だった。


 有名萌え絵師ことごとくクビにしたのも、そういうナーバスな背景があったから、先生の意向尊重が第一だったんだってさ。


 今知らされる舞台裏。衝撃の真実。


 そんなデリケートな状況下、おぼれる寸前で藁ことあたしが登場。うっかり先生サマの創作意欲刺激したもんだから、これは絶対逃がすな手放すな、とトップダウンの指令が出て、先生サマがいつでも直ぐ絵を描いてほしいという意向をポロリと漏らしたら、編集部一丸となってあたしをカンヅメにする陰謀を企てた、と。


 ……黒幕は組織だった。先生が主犯じゃなかった。いや、先生もコレ幸いと乗っかった感はあるけどさ。事後従犯ってやつか。緒峯さんも一枚どころじゃなくかんでるっぽい。あたしの性格折込済みだ。


 後はご存知の通り、押しに弱いあたしはあれよあれよと思うツボに陥った。


 そーゆー話聞かされた後で、おかげさまで先生も以前のように執筆できているようですありがとうございますとか。


 最初っからダシにされてたんだ。


 うっかり藤埜サン信用していたあたしってば、どんだけ……。



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