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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
さんさつめのおしごと
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#さんのじゅうよん




「……これはなんですか」


 ついに先生が、リビングにふらふらと出たきた。


 そして落書きしてたスケッチブックを覗く。


「……牛乳好きの僧侶と寝起きのドラキュラと天照大神です」


 全部先生モデルだけどね!


「……ふむ」


 うん。追求しないでください。


「コーヒー飲みますか」


「いいえ。自分でやります」


 ……やはりスティックシュガー5本は大ダメージだったようだ。先生は速攻断った。


「で、お仕事終わったんですか。編集さんとか来るんですか?」


 なんかもーこのリビングのこのソファ、寝心地が気に入ってしまって、普段の落書きは大抵ココが定位置になっちゃったんだけどな。


「いいえ。散歩がてら、届けに行くつもりです」


 ああ。そういうトコ先生フットワーク軽いですよね。


「この前の編集さんですか?」


 あの前方不注意の。あの人にはちと顔合わせづらい。先生が説明してなかったら、多分盛大な誤解してるだろう。


「はい」


「お留守番してます」


「駄目です」


 うわー、なんで駄目なんだよ。


「ついでに食事もしてきますよ。一々出直すのは二度手間です」


 そんな手間は惜しむんだ……。


 まあ、出版社まで行かないで外で待ってればいいか。先生が連れてってくれるご飯はいつも美味しいし。




 ……と、餌に釣られたことを、今後悔している。


 うん。先生は届けに行くとは言ったけど、出版社までとは言わなかった。どこかで待ち合わせって可能性も当然あったわけか。


 駅近くのカフェで、あの編集さんと顔合わせちゃって、向こうもすっげー気まずそうな顔した。


 普通にお茶飲みか時間調整かでカフェに入ったものと思い込んでいたあたしは、苺レアチーズケーキに今まさにフォークを差し入れようとしていたところだった。


 い、今更、逃げらんない……。


「構わず食べていてください。直ぐ済みます」


 先生。いくらなんでも、ちょっと礼儀というものが。


 先生は構わず編集さんに椅子を勧め、テーブルには妙な緊張感が漂った。


「短編の原稿です。コレで、全部終了ですね」


「ありがとうございました。………それで、今後なんですが……」


「申し訳ない。ご覧の通りですので、お話はまた後ほどに」


 にべもない。先生はスパッと話をぶった切った。


 ……先生。その編集さん、飲み物頼むどころかお冷すらきてないよ。カフェ入ってきて今まで一分経ってないよ。


 あたしはダシにされたみたいだ。


 ……うまうま。この苺レアチーズケーキ、紅茶と良く合いますね。アーモンド風味のタルト台って初めて食べました。先生は美味しい店良くご存知だなー。


 察するに、この編集さんの社とのお仕事はコレで終わりらしい。で、編集さんはぜひとも次のお仕事の話をしたい。でも先生は、今はそっちのお仕事を引き受けるつもりはないっぽい。はっきりすっぱり切り捨てないのは、とりあえず今のところは、だからか。


 ……うーん。


 どうしよう。あと一口でケーキ終わっちゃうよ。あたしは今時間を稼ぐべきかそれともさっさと食べ終わらせて席を立つべきか。


 お皿を睨んでいると。


「美味しかったですか?」


 不意打ちで先生がこっちに話を振るので、反射的に、力いっぱい頷いてしまった。


「すっごく!」


 そうしたら、先生サマがニコリと微笑まれました。あたしは学習した。この微笑は、危険信号だ。


「それは良かった。私にも味見させてください」


 と、フォーク持ったままのあたしの手をとって、残り一口のケーキをブスリとさして、自分の口に放り込んだ。


「あ、ああ!! あたしのケーキ!!」


 最後の一口なのに!!


「……少し甘すぎませんか」


 唇に付いた苺ジャム親指で拭いながら、先生が寸評を。


「紅茶と一緒にいただくとちょうどいいんです!」


 このケーキへの侮辱は許さん!


「ああ。そうですね。それなら」


「そうですねじゃないですあたしのケーキ!」


「では、また何かご馳走しましょう。とりあえず、出ましょうか」


 シレっと伝票とって、席を立つ。


 ……編集さん置き去りで。


「え? でも」


「行きましょう」


 ……なんで腰に手を回すかな。距離が近すぎます。そしてその如何にもな微笑みは誤解を量産しています。


 わざと誤解させてどうしようってんですか。


 先生はこのサブイボな芝居を、カフェを出てからもしばらく続けた。




「で、説明してくれるんですか?」


 あたしは説明を求める権利があると思うけどね。


 先生と二人で地下鉄って、いやな思い出しかないな。二度あることは三度あるのかな。


 今度は車両内空き空きだから、被害者はほとんどいないよ!


「見たとおりですよ。……あちらの仕事は当面請けたくなかったので、少し距離をおきたかったんです。ダシにして申し訳ない。ですが、中々上手くいきましたね」


 上手くって。先生は上手くやったと思いますけどね。

 

 彼女にあまあまなラブラブ彼氏。基本、エスコート上手だし。見た目紳士だし。


 問題は、彼女役があたしって事だと思いますけどね。


 ってゆーかさ。


「先生。あの編集さん、イロイロ誤解してると思うんですけど」


「誤解させたんです。当面オンナに浮ついて仕事が手に付かないとでも思って貰えれば上々ですね」


 うん、ソレはそうなんだけどさ。でもね。


「あの。あたし、前に先生のトコであの編集さんに会ったじゃないですか」


 そういえばそうでしたね、と先生が頷く。


「その時、ですねー」


 やっぱり誤解を招くようなことを、ですねー。


 契約がどうとかこうとか言ったような気が。


 あの時の発言と、今日の先生のベタ甘な態度と。


 つなぎ合わせたらどんな誤解に発展するかなー……?


「先生。パパラッチ、お嫌いなんですよね?」


 嫌な予感しかしない。先生のみならずあたしもだ。

 



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