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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
さんさつめのおしごと
34/59

#さんのはち




 そのまま、コーヒースタンドで2時間が経過した。


 ……その間、あたしは、一回お手洗いに席を立ち、自分用にキャラメルマキアート、先生にも一応形ばかりはブレンドを買って、どうせ飲まないで冷めちゃうんだろうなと思いつつもミルクと砂糖を勝手に投入して彫像にお供えし、キャラメルマキアートを飲み干し、携帯用の小さいスケブに沈思黙考の彫像をスケッチし、通りかかりの店員さんに絵を褒められ、じゃあコレアゲマスと先生の絵を勝手に譲り渡して狭い店内長時間テーブルに居座っちゃう罪悪感を解消して、店員さんにお冷とお絞りサービスしてもらって、冷めたコーヒーもスケッチし、先生の手だけもスケッチし、顔だけのスケッチしたらまた店員さんがチョロチョロ覗いていたのでニ割増美形に描いた先生の肖像を進呈し、アイスになったお供えのコーヒーを勝手に頂いて、再びお手洗いに行って戻ってきたら、先生が正気に戻った。


「お帰りなさい。思考の迷路は脱しましたか」


 なんとゆーか、あたしもかなり大作家先生に慣れたな。


「はい。有意義な時間でした」


 先生。ジムのこと忘れてるといいな。


「それは何よりです。では時間も経ちましたし、お店出ましょう。とりあえず駅に」


「いえ、ジムに」


 ……くっそう覚えてたよ!


「……行くんですか」


 これは、やっぱり逃げられない、かなー……。


 仕方ない。実際描かなきゃならないとしても、主人公はマッスルじゃない女の子だ。背景に一匹二匹マッスルが紛れ込むくらいはどうにかこうにか。


 ジムに行っちゃったら、とりあえずマッスルは目に入らない、筋肉なんか透明人間。そこにいないものとしてスルー。自己暗示。


 ダイジョウブあたしは女優。握りこぶしで自分に言い聞かせる。見えない見えない。ダイジョウブ。


 ……今直ぐ第三次世界大戦始まったら、きっとあたし喜んじゃうな。ジムどころじゃないって。


「……種を明かしますと、今日は全国大会の開催日なんですよ。大会参加者なら当然先ほどの会場の方に行っていますし、同じジムの仲間も都合の付く限り応援に行っているでしょう。つまり今日ならば、ジムには受け付け程度にしか人がいないはずです」


 明後日の方を眺めて、大作家先生が言う。……言う。


 ……え? 


「……あなたほどではありませんが、私も別に好き好んでマッチョマンを見たいとは思いません。ええ。全く思いませんね。ですから、こういう日程にセッティングしたわけです」


 ……なんて言ったの?


「トレーニングマシーンなど一通りは知っておきたいので、取材は外せないのですが」


 っつーかさ。つまり、先生、自分も嫌だったの!?


「先生、まさかあたしが嫌がってるの、面白がってました………?」


 なんなの? そう言うこと?


「いいえ? 面白くなんかありません。ですが、あなたは追い詰めた方がいい仕事をするので、まあ」


 ……『まあ』、ナンですか!


「実際、あなたのボディビルに対する認識は、かなり鋭いと思いました。手段が目的となってしまった、その辺りの矛盾は作中でも触れる予定です。先ほどの話を聞けば聞くほど、あなたには是非、『無駄な筋肉』を描いていただきたいと思いますよ」


 楽しみです、と仰る大作家先生。


 改めて、あたしは大作家先生の悪辣ぶりを思い知った。





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